コラム
オンナ万引きGメン日誌

万引きGメンが語る「最も印象に残った万引き犯2020」! 「私……ここの従業員なんです」おばちゃんは嗚咽を漏らして

2020/12/26 16:00
澄江(保安員)

「こんばんは、お店の者です。バッグの中に隠したモノの代金、お支払いいただけますか?」
「…………」
「認めていただけないなら、いますぐ警察を呼ぶことになっちゃうんですけど、それでも大丈夫ですか?」
「ごめんなさい」

 しばし沈黙した後、犯行を認めてくれたおばちゃん3号に、事務所への同行を求めます。踵を返す形で、店内にある事務所に向かって歩き始めてまもなく、胸に手を当てたおばちゃん3号が苦しげな様子で足を止めました。おそらくは、捕捉されたことで胸が一杯になり、うまく呼吸ができないのでしょう。逃走する雰囲気はありませんが、念のため腰元に手を置きながら、優しく声をかけます。

「具合悪くなっちゃいましたか? ゆっくり深呼吸して、落ち着きましょう」 
「……いえ、そうじゃないんですけど」
「それならよかった。もう少し歩けます?」
「あの、実は、私……」

 堪えきれない様子で、嗚咽を漏らし始めたおばちゃん3号が、私の胸倉を掴んですがりつくようにしながら言いました。

「あの、私……、ここの従業員なんです。うわーん」
「ええ!? それは、困ったわね。店長さん、きっと悲しむわよ」
「うわーん。私、なんてことしちゃったんだろう。ごめんなさい、ごめんなさい」
「私じゃなくて、店長さんに謝らないと。目立っちゃうから、あまり大きな声出さないで」

 ウソ泣きだったのでしょうか。途端に冷静さを取り戻したおばちゃん3号は、覚悟を決めたかのように同行に応じてくれました。事務所の扉を開くと、店長さんがパートさんの面接をしておられたので待機していると、居心地悪そうに佇むおばちゃん3号の姿を見た店長が異変に気付いて声をかけます。

「どうしたの? 忘れ物?」
「いえ、そうじゃなくて……」

 後方にいる私の姿を見つけた途端、なにかを察したように顔を曇らせた店長が、俯いて黙り込むおばちゃん3号の頭越しに言いました。

「まさか、違うよね?」
「すみません。従業員さんとは知らずに、見ちゃったものですから……」
「はあ? ウソでしょ? Sさん、開店から一緒にやってきたのに、そんなことしないでよ」

あとで連絡すると、すぐに面接を切り上げた店長は、事務所入口まで面接者を見送り、おばちゃん3号をパソコンデスクの前に座らせます。早速に、バッグに隠した商品を出すよう促すと、現認した商品のほかに、練り物セットと高級チョコレートも出てきました。計6点、合計で4,000円ほどの被害となりましたが、5,000円ほど持っているというので、商品の買い取りはできそうです。

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