1億7700万円をだまし取った「62歳の聖子ちゃん」、山辺節子の男と金と詐欺人生【熊本:つなぎ融資の女王】
世間を戦慄させた事件の犯人は女だった――。平凡に暮らす姿からは想像できない、ひとりの女による犯行。自己愛、欲望、嫉妬、劣等感――罪に飲み込まれた闇をあぶり出す。
早朝の羽田空港。スーツ姿の捜査員に伴われ、タイから強制送還されたその女が姿を見せると、報道陣からどよめきが起こった。頭に上着のフードを深くかぶり、ワイドショーなどで報じられていた“聖子ちゃんカット”が隠されていたからではない。朝はまだ肌寒い4月にもかかわらず、膝上20センチのショートパンツから、美脚があらわになっていたためだ。
「62歳の聖子ちゃん」とも呼ばれていた彼女は、東京の男性から7000万円近くを違法に出資させたとして国際指名手配されていた。逃亡先のタイでは色白ぽっちゃりフェイスに松田聖子風のヘアスタイル、オフショルダーの白いブラウス、生足にショートパンツという出で立ちで、さらには“38歳”と年齢を偽っていたという。
被害者は東京の男性だけではない。複数の知人らに投資話を持ちかけ集めた多額の金を、入れ込んでいたタイ人の男性(35)に貢いでいた。そしてその前には、フィリピン人男性の恋人にも、多額の金を貢ぎ、家族の生活費まで払っていた。
【熊本 つなぎ融資の女王】
熊本県上益城郡益城町の中心から南東に4キロほどの場所にある、山あいの小さな集落。数軒の農家が並ぶ中、周囲の風景と不似合いな豪邸がそびえる。地元では「姫御殿」と呼ばれるその家に住んでいたのは「62歳の聖子ちゃん」「つなぎ融資の女王」こと、山辺節子(逮捕当時62)だった。彼女が逮捕されたのは2017年4月。この「姫御殿」に続く道は当時、前年4月に発生した熊本地震で倒れ落ちた巨石で塞がれていた。
「ここいらじゃそんな豪邸はあれだけよ。金持ちの男に貢がせて建てたっちゅう話。真っ赤なベンツば乗り回しよって、有名な女じゃった」(地元住民)
節子はのちに被害者となる出資者らを、その「姫御殿」に招き、つなぎ融資のスキームをこう説明していたという。
「融資の審査に通っても、実際に大企業が銀行から資金を借りいれるまでには数カ月のタイムラグがある。そのつなぎの資金を調達するから、元本保証なのに10カ月で平均20%ものリターンになる」
企業が銀行に融資を頼み、それが実行されるまでには時間がかかる。このタイムラグを埋めるのが「つなぎ融資」であり、融資の相手先にしているのは、東芝やシャープ、ソニーといった大企業ばかりなので、倒産の恐れはなく、銀行から融資が降りればすぐにお金は返ってくる。だから元本は保証されており、高利率の配当が約束される、というのである。
知人の紹介を受けて「姫御殿」に招かれ、のちに4000万円の被害を被った男性は語る。