サイゾーウーマン芸能韓流「セウォル号沈没事故」から6年、遺族の今 芸能 [連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』 「セウォル号沈没事故」から6年――韓国映画『君の誕生日』が描く、遺族たちの“闘い”と“悲しみ”の現在地 2020/12/11 19:00 崔盛旭(チェ・ソンウク) 崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』 『君の誕生日』“複数の遺族”との交流から生まれたシナリオ (C)2019 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & NOWFILM & REDPETER FILM & PINEHOUSEFILM. All Rights Reserved. セウォル号沈没事故で犠牲になった高校生と、その遺族の悲しみを軸にした本作では、コラムの冒頭で紹介したような政治的利害論争とは距離を置き、事故について直接言及はしていない。最愛の家族を失った遺族の心境のみに焦点を当てていることが、何よりも本作の明確なメッセージになっているといえるだろう。 イ・ジョンオン監督は事故後、遺族に寄り添うボランティア活動に従事し、長年にわたる遺族との交流の中から本作のシナリオを書き上げたという。特定の人物を取り上げるのではなく、多くの遺族から聞き取ったさまざまな物語を映画のキャラクターに溶け込ませる手法には、人間の内面を突き詰めた作品作りで知られるイ・チャンドン(以前のコラムで紹介した『バーニング 劇場版』の監督)のもとで学んだ彼女ならではの丁寧さが感じられる。イ・チャンドンも製作に参加している本作は、イ・ジョンオン監督のデビュー作であり、観客からも多くの共感を得た。 本作を見ながら頭に浮かんだのは、「不在(absence)」と「現前(presence)」というキーワードだった。というのも本作は、「死=不在」をめぐる物語にもかかわらず、『君の誕生日』(原題は『생일』=誕生日)というタイトルにも暗示されているように、新しい命としてこの世に生まれた「誕生=現前」の日に焦点を合わせているからだ。そして、映画の中心を担う残された3人の家族は、スホの不在を「現前する(=そこに存在している)不在」に変えていくことで、深い悲しみを少しずつ乗り越えていこうとしている。 次のページ 『君の誕生日』母、父、妹……家族を通して伝えられた「メッセージ」 前のページ1234次のページ 楽天 Yahoo セブンネット 韓国 現地からの報告 関連記事 韓国で英雄視される「義烈団」と、日本警察の攻防――映画『密偵』から読み解く、朝鮮戦争と抗日運動の歴史映画『82年生まれ、キム・ジヨン』は“男性社会”を可視化する――制度だけでは足りない「見えない差別」の提示不朽の名作『息もできない』が描く、韓国的な「悪口」と「暴力」――“抵抗の物語”としての一面を繙く63人の被害者を出した「奴隷事件」――映画『ブリング・ミー・ホーム』が描く“弱者の労働搾取”はなぜ起こったかEXO・D.O.主演『スウィング・キッズ』、“タップダンス”で際立つ暗鬱な現実――「もしも」に込められたメッセージとは