『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』定住しない30男、「住まい」に関する信念「ボクのおうちに来ませんか ~モバイルハウスで見る夢~」

2020/12/07 20:16
石徹白未亜(ライター)

アラサー世代が「自信」を得た先に

 30歳前後、アラサーといわれる年代は、10代とはまた違う特有の“万能感”や“自己肯定感”を抱きがちなように思う。私自身、その頃は自身に対して不思議な万能感を覚えていた。それはきっと、仕事に慣れてきて、自分で生計を立てられるようになり、気兼ねなく金も使え、社会との付き合い方がそれなりにわかってきたことによる自信なのだと思う。

 赤井やおぐりの選択も、そうした自分への肯定感や万能感が背景にあるのかもしれない。赤井のようにモバイルハウスについて講演を行うなど、選択に対して成果があれば、 より自分の選択に自信を持ちやすい気もする。

 一方、自分が「親」になっていると、そうした感覚は難しいのかもしれない。小さな子どもに振り回される生活では、自分の思うように生きることはできない。赤井が学生時代の友人・島田の家を訪ねた時、妻子と暮らす島田は親の大変さやありがたみが親になってはじめてわかった、と大人の発言をしていた。赤井はどんな思いで島田の発言を聞いていたのだろう。

 赤井に限らず、「持たない/断捨離/働きすぎない/自分らしい暮らし」系を実践する人は増えている。その中には赤井のように、ストイックというか、もはや暮らしにくいのでは、と思えるくらい極端な例も見受けられる。自分のチョイスに自信のある人も多いだろう。

 赤井の母親は息子に対し、たしなめるでも諭すでもなく優しく、「『これがよかったかな?』とか『自分が本当にこれで幸せだったか』なんて、今思っているのと10年後の本当のことは一緒じゃないかも」と話していた。これは至言だと思うが、赤井にはどう響いたのだろうか。


 自身を振り返っても、アラサーの持つ万能感はこの世代の“はしか”のようなものであり、永遠ではないと思う。そして、それが終わったときに訪れる「中年の危機」はきついものがあった。しかし、自身の中にある万能感のようなパッションを否定すると、いつまでもくすぶりかねない。結局は、付き合っていくしかないのだろう。

「住まい」に関する信念

 赤井は「ボクの暮らしを見て『自分はどんな暮らしをしたいのかな』って、みんなが考えるきっかけになったらいいなって」「ボクのやろうとしている暮らしは極端です。ボクもやったうえで、それを続けるかわからない。でも、やったことがないからやってみたい」と、自身の生き方について率直な思いを話していた。

 おぐりの彼女、ゆりかも「軸を変えてみたら、そっち(モバイルハウス的な暮らし)も、もしかしたら不自由で、もしかしたら縛られている?」と言葉を選びつつ話していた。この二人の「住まい」に対するそれぞれの思い、信念は、番組を見ていてよく伝わった。

 一方、おぐりはモバイルハウスに住むことについて「(山の)ちょっと過酷な環境で生きてるって思うことが、自分の中の安心になっているのかな」などと話していた。自由が丘での生活も満喫していたし、赤井、ゆりかの思いと比べて自身の「住まい」に関する思いがふんわりとしていて、どうもよくわからなかった。

 しかし、この曖昧な感じは「穏やかさ」にもつながっている気がする。おぐりは見るからに穏やかだ。旧態的な男らしさをゆりかにふりかざす姿など想像もつかない。だから、ゆりかはおぐりと付き合っていて、赤井もおぐりを相棒のようにしているのだろうとも思う。


 次週は「悪ガキと ひとつ屋根の下で ~夢の力を信じた10年の物語~」。家族に暴力をふるう、荒れた「小学生」男子。そんな少年たちを父親代わりとして育てる格闘技トレーナー、古川誠一の10年間。

石徹白未亜(ライター)

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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最終更新:2020/12/08 12:15
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