元公安が語る、刑事ドラマのウラ側! 『絶対零度』の井沢範人に警察関係者がびっくりしたワケ
長年、ドラマ界の一大ジャンルとして人気を集める「刑事ドラマ」。昨今、刑事ドラマは視聴率を得やすいとされ、作品が量産されている状況だが、果たして、本職の刑事(デカ)の目にはどう映るのか?
今回、大学卒業後に会社勤務を経て、警視庁に入庁後、刑事畑さらには公安畑も渡り歩いた異色の作家・北芝健氏に、昭和から現代にかけての刑事ドラマの変遷を刑事目線で語ってもらった。
『太陽にほえろ!』『西部警察』昭和の刑事ドラマはあり得ないシーンばかり!
――北芝さんは、世代的に昭和の名作刑事ドラマも見てきていると思いますが、現代の刑事ドラマとは、随分印象が違うと感じられるのではないでしょうか?
北芝健氏(以下、北芝) そうですね。昭和から令和にかけて、刑事ドラマの傾向や演出がすごく変わりました。制作現場のリアリティ志向が強くなり、同時に視聴者も目が肥えてきたんですね。
かつては、『太陽にほえろ!』(日本テレビ系、1972~86年)のように、捜査一係の面々が、麻薬、殺し、組織的な密輸やテロ事件まで取り扱ったり、以降も『西部警察』(テレビ朝日系、79~84年)のような、やたらとガラの悪い刑事がショットガンを撃ったり、カーチェイスやドンパチをやるリアリティのない刑事ドラマの時代がずっと続いていました。お茶の間もそういったストーリーにドキドキして、毎週見ていたわけですから、当時はそれで良かったんです。ところが刑事視点で当時のドラマを見ていると、やはり現実とかなり違う細かな描写が目につきましたね。
――例えばどんなシーンですか?
北芝 古い刑事ドラマの取り調べのシーンというと、刑事が容疑者に「カツ丼食うか?」と声をかけたり、「お前がやったんだろ!」と机のライトを顔にあてる……みたいなものを思い出されるでしょうが、それらは全部あり得ないシーン。最近はそんな描写のある刑事ドラマはなくなりましたが、平成に入って間もない頃は、まだそういった昭和の刑事ドラマ的風景がドラマの演出として残っていました。
ちなみに、私が考証・指導で入った刑事ドラマの多くは、取り調べのシーンで、机に瀬戸物のコーヒーカップやボールペンが置いてあった。実際にそんなものが置いてあったら、容疑者は瀬戸物のコーヒーカップを割って武器にしたり、ボールペンで刑事の首を刺したりしかねませんよ。
――北芝さんは、それを撮影現場で「実際はこうです」と指導されていた、と。
北芝 ところがすんなり受け入れてもらえないんですね……。演出家に忖度して、アシスタントがありったけの小道具を用意し、「どれかは演出に沿うだろう」と机に揃えたりするわけです(苦笑)。
それに、私が「それ違いますよ」と言うと、演出家が怒っちゃう。力を持った主演俳優さんが説得して、やっと演出家が折れる。そんな光景が平成に入っても10年くらいありました。いま皆さんが見ている刑事ドラマでは、取り調べ室のデスクの上に何も置いていないはずです。