「自傷行為をするようになった母」父が亡くなって12年、積み重なる違和感は「年を取ったから」だと考えていた息子
“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)
そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。
平成29年版高齢者白書によると、2012年の認知症患者数は462万人。2025年には5人に1人が認知症になるという推計もある。こうした状況もあって、認知症はかなり身近な病気だと感じている人は多いと思う。周りに認知症になった人がいるという人も少なくないはずだ。その一方で、老人性ウツはあまり話題になることがない。認知症と老人性ウツの初期症状が似ていることから、見分けがつきにくいという。「認知症よりも老人性ウツの方がやっかい」と話す医師もいるほどだ。
今回、話を聞いた鷲津昇平さん(仮名・51)も、「母は認知症で、グループホームに入っています」というが、老人性ウツか、ウツ傾向の強い認知症なのではないかと思われる。鷲津さん自身、母親が認知症だと診断された記憶はないという。
母の金銭感覚がおかしくなった
鷲津さんが母親の異変を感じたのは、父親が亡くなった12年前にさかのぼる。
「父が亡くなって母が一人暮らしになったころ、母のお金に対する感覚に違和感を抱くようになりました。『預金がこれくらいあるはずだ』とか何度も繰り返すし、それが現実とは明らかにかけ離れた額、億単位なんです。それでも、それが日々の生活に直接影響するわけでもわけでもなかったで、特に大ごととも思えませんでした。年を取ったからだろう、くらいに考えていたんです」
鷲津さんの母親の場合、何か決定的に「おかしい」と思えるできごとはなかった。ただ、母親の近くの賃貸マンションに住んでいた鷲津さんにとっても、別世帯で暮らしていくのは経済的にもったいないという気持ちが大きくなっていった。父親が亡くなって2年ほどして、鷲津さんは母親が住んでいたマンションを処分し、戸建て住宅を購入して母親と同居することにした。
「それまでフリーで仕事をしていたんですが、体力的にも一人で仕事を続けるのが大変になっていました。会社組織にして従業員を雇い、自分はマネジメントに専念したいと考えていたので、家の購入は自宅を事務所にするいいきっかけとなりました」
マンションだったとはいえ、母親の家を片付けるのは想像以上に大変だった。
「トラックで何十回ゴミ処理場に運んだかわかりません。思い出があって、捨てるに忍びないものもたくさんありましたが、捨てないとどうしようもない。割り切って処分しました。それでもすべて片づけるのに半年はかかりました」