コラム
【連載】堀江宏樹に聞く! 日本の“アウト”皇室史!!

勉強しすぎは女の価値を下げる!? 妃殿下、“お嬢様教育”の仰天実態は「高校を寿退学」がステイタス

2020/10/24 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

堀江 当時はご自分でお弁当を持つようなことはなく、侍女がそれらを捧げ持って一緒に通っているし、伊都子さまが学校で授業を受けている時は、控室でその侍女が下校時間までお待ちするという。我々の目には過保護すぎる生徒でいらっしゃいました。

 ついでにその弁当も、オカズに焼き魚が入っていると、裏返して食べたりはしないんだそうです。半身は残すんですね。魚を裏返す姿が「せせこましい」からでしょう、きれいに残しちゃう(笑)。彼女にいわせると、それも伊都子さまいわく「厳しいしつけの一貫であった」と。

――食べる物がなくて泣いている庶民もいただろう時代に、やっぱり極めつけのお姫様学校は違いますねぇ。華族女学校というのは女子学習院とはまた別なんですか?

堀江 はい。1906年(明治39年)以降に“合体”していますが、それ以前は別ですね。伊都子様の小学科へのご入学は1888年(明治21年)です。基本的に学習院は上流階級の男子生徒のための学校だったので、上流の女子教育の場として、皇后および宮内省の管轄下に置かれた官立学校として1885年(明治18年)に作られています。

――皇后様の管轄下ってのが、すごいですね。

堀江 そう。同校は、小学科(現在の小学校)と中学科(中学~高校)に分かれていました。教授陣には2024年からの新5千円札の「顔」である津田梅子もいたそうですが、津田梅子の弟子の山川菊栄の言葉によると、華族女学校時代、津田先生は「まるっきり勉強する気がない」生徒ばかり担当させられ、嫌気がさしたそうです(『現代日本記録全集10 明治の女性』内、山川菊栄と原田伴彦の対談より)。

 津田梅子は本当に手に鞭を持って(!)授業に臨んでいたのに、拍子抜けしてしまうくらい、生徒の学習意欲がなかったようですね。うんざりした津田先生は約3年で華族女学校を離職、津田義塾を創建するに至ったのでした。

――ビシバシできなかったんですね。この頃のお嬢様って、それほど勉強しないものなんでしょうか(笑)?

堀江 学問への関心が相対的に低いようです。勉強しすぎると、女としての価値が下がるみたいな気風は確実にありました。現在なら非常に問題になるところですが(笑)。学校には行儀作法や、書道などだけは完璧に身につけたレディーばかりが入学してきたようですよ。まぁ、当時の「女のたしなみ」ですよね。

――女は勉強なんかしなくていい、という時代ですか……。勉強しないなら、学校へ行く目的はなんだろうと思ってしまいます。

堀江 授業参観日に、誰かのお母様の目に止まって、お声がかかってご婚約。その時点で途中退学する「寿退学」こそ、華族の姫としての最高のステイタスだと教えられているのです。というわけで、あまり学問習得には熱心ではなく、ぼんやりとして見える生徒さんが多かった様子。とくに数学と外国語の成績が、悲惨なまでに悪い学生が大量にいたそうです。

 伊都子さまのご入学は1888年(明治21年)以降だそうですから、津田梅子が教鞭を取っている時期にあたります。伊都子さまの自伝でも津田先生については、まったく触れていませんが、当時はまだ小学科ですから、英語の時間はなかったのかもしれません。

――伊都子さまのご成績は……?

堀江 伊都子さまはフランス語などをお妃教育の過程で猛特訓なさって、外国に行ったときも驚かれるレベルで話せたし、後には赤十字社から「看護学修業証書」まで与えられていますから、ご成績自体も良かったのではと推察されます。

 ちなみに名前こそ「華族女学校」なんですけど、平民もしくは士族の女生徒のほうが華族・皇族のお姫様よりも数が多かったってご存じですか?

――ええっ、華族女学校なのに? ……次回に続きます!

 

堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『眠れなくなるほど怖い世界史』(三笠書房)など。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)。

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最終更新:2020/10/24 17:00
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