「30年間、電車で痴漢を繰り返してきた」――性犯罪“加害者”が語る「逮捕されてもやめられない」理由
生活の中心に、痴漢行為があった。Oさんは仕事帰り、痴漢のチャンスをうかがいながら、始発駅から終着駅まで何往復もすることまであったという。それだけOさんにとって痴漢は、「求めてやまない」行為だった。しかし、それがれっきとした犯罪行為であることは、本人もわかっていた。
「いつか刑務所に入ることになるんじゃないか、という思いはありましたね。でも行為中は、そんなことをまったく考えないんです。相手のことだけじゃなく、自分がどうなるのかすら考えていない状態。まるで別人になっているかのようでした。一度、痴漢をしている時に、私の行為を目撃していた男性が手を振り払ったことがあるのですが、その人の顔を見たら、近所に住む顔見知りの男性でした。普通ならそこで痴漢をやめると思うんですが、私は彼に見せつけるようにして、また女性への加害行為を再開していたのです。『俺はもう、あんたが知ってる俺じゃないんだ』と言いたかったのかどうかわかりませんが、行為中はそのぐらい、わけがわからなくなっている。でも、終わるとすぐに罪悪感に襲われるんです。夜寝るときに『いつか捕まるかも』と不安に駆られていました」
痴漢を続けながら、痴漢をやめたいとも思う。「逮捕されたい」とまで願う。相反する思いに振り回される中、Oさんの心に安定をもたらしたのが、最初の服役だった。
「自分の意識が痴漢にとらわれずに済む環境にいる、というのは本当に楽でした。意識したところで、そこには女性がいません。欲求から解放されるので、『自分はもう痴漢をしなくていい』という心境になるのです。懲役刑は犯罪者への罰なのに、私にとっては社会で暮らしているよりずっと平穏なのだから、おかしいですよね。でも、最初の服役を終えて社会に戻ったときは、『二度と刑務所には行きたくない、だから痴漢は金輪際しない』と思うんです。なのに、一歩家の外に出たら、痴漢行為に意識がとらわれる。電車を見たり改札の前を通ったりするだけでドキドキするようになり、痴漢のことしか考えられなくなりました」
ほどなくしてOさんは痴漢を再開し、43歳で再び逮捕される。その時はどうやって捕まったのか記憶にないほど、混乱した状態だったという。二度目の出所後も同じく、「もう戻りたくない」と思ったOさん。そこから10年、加害行為をしていない。一体何が彼を変えたのか――第2回につづく。
(三浦ゆえ)