「30年間、電車で痴漢を繰り返してきた」――性犯罪“加害者”が語る「逮捕されてもやめられない」理由
刑務所で刑期を終えたあとは、二度と罪を犯さない。これはすべての犯罪加害者に求められることだが、近年は性犯罪加害者に対して、特にその声が高まっている。性犯罪の再犯率は高く、なかでも痴漢のそれはほかに比べて際立っている。逮捕されても、罰金刑になっても、服役してもやめられない。そして、新たな被害者を生み続けている。
再犯防止のための策がないわけではない。刑務所内では、受刑者を対象に「性犯罪再犯防止指導(通称:R3)」が、保護観察所では、裁判で執行猶予判決が出た者と仮出所してきた者を対象に「性犯罪者処遇プログラム」が用意されている。いずれも医療と特殊教育を合わせた“治療教育”による再犯防止が目的。これらは、一定の効果が報告される一方、刑期の短い痴漢は受講対象から外されるなど、すべての性犯罪者が指導やプログラムの対象ではないという問題点も、各方面から指摘されている。また、指導を受ける時期や、期間の短さといった問題からも、明確な効果は疑問視されている。
「再犯率が高い」ということは、「刑務所で罰を受けるだけでは性犯罪をやめられない」ということに等しい。一体なぜ、逮捕されても、服役しても、性犯罪を「やめられない」のか? 痴漢行為をはたらき、民間の医療機関が行う「独自の再犯防止プログラム」 で治療を受けた男性と、性犯罪加害者の再犯防止に民間の医療機関で取り組む専門家にそれぞれ話を聞き、“加害者”側から「再犯をやめること」について考えてみたい。
第1回は、18歳から痴漢行為に手を染め、その後、約30年間にわたって再犯を繰り返しながら、国内の民間治療機関に通っていた50代男性・Oさんに、自身の経験を語ってもらった。
痴漢は「ストレス解消の手段」だった
「最後のほうは、逮捕されたくて痴漢をやっていた」と、Oさんは言う。18歳から電車内で痴漢行為をするようになり、何度か罰金刑を受けてきた。それでも痴漢をやめられず、41歳のときついに起訴され、執行猶予判決が出る。それと同時に治療機関へ通うも、Oさんの生活は変わらなかった。執行猶予中にまた逮捕され、5カ月の実刑判決を受ける。にもかかわらず、43歳のときに再犯してしまい、今度は11カ月間服役した。
二度目の服役を終えてから10年以上、何度も繰り返してきた痴漢行為は止まっている。Oさんはなぜ、痴漢をやめ続けられているのだろうか? 彼の軌跡から再犯防止のためのヒントを探っていくが、その前にまず、Oさんが長年の痴漢行為に何を求めていたのかを聞いた。
Oさんは、痴漢を始めてから、大学生、社会人になるにつれ、行為の頻度や接触の度合いがエスカレートしていったという。
「今ふり返ると、私が痴漢行為を繰り返していたときは、自分自身の人間関係の影響を大きく受けていたと感じます。私が育ったのは、父も母もボランティアなどの社会活動に熱心な、地域に根ざした家庭でした。私は、子どものころから表で“いい人”のように振る舞いながら、裏では痴漢を働いていたのです。小学5年生のころ、妹に性虐待をし、高校生になって痴漢に手を染めます。成人してからは、会社で嫌なことがあったり、女性とうまくいかなかったり、人間関係でつまずくと『じゃあ痴漢しよう』と、ストレス解消の手段になりました。地域のボランティアでも、会社でもそこそこうまくやってはいたのですが、裏でそんなことをしていたら、当然、本当の信頼関係を人と築くことはできません。自分で自分を孤独な状態に追い込んでいるようなところがありました」