中学受験に2年間で400万円投入、マンションも手放して……「受験産業に踊らされた」母が今思うこと
“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。
中学受験を表した言葉に「負けが込む博打」というものがある。
思うように我が子の偏差値が上がらない現状に、「今度の模試こそは!」「次回のクラス替えこそは!」とばかりに期待を込めて、過剰にお金をつぎ込んでしまう親を揶揄した言葉だ。確かに中学受験は、一度、足を踏み入れてしまうと「勇気ある撤退」はしにくいこともあり、親の多くがお金をかけすぎる傾向がある世界なのである。
例えば、このままでは志望校には合格しないという焦りのあまりに、塾の言うなりに多くのオプション講座を取ってしまう、また、塾以外に個別指導教室にも通わせるなどだ。
冷静さを失うと、中学受験の合否に対する不安感ばかりがあふれ出すので、それをどうにかカバーしようと、お金で解決しようとする親が出現しやすいと言えるだろう。
多香子さん(仮名)も、そういう親の一人であった。
多香子さんと夫は、ともに地方出身者で、高校までは公立で過ごしてきたこともあり、当初は長男・芳樹君(仮名)に中学受験をさせようという考えはなかったという。
一家は、芳樹君が小学5年生のときに、新居としてマンションを購入し、移り住む。転校した芳樹君にはすぐに友人ができたそうだが、その子たちと放課後に遊ぼうとすると断られるらしく、理由を聞けば「中学受験塾」に通っているということがわかったのだそうだ。
芳樹君のクラスメイトは、半分が受験組だったというが、気の合う子たちは全員、受験組。そして、芳樹君が望んだこともあり、多香子さんは「なんとなく中学受験に参入することになった」と話してくれた。
「後で気が付いたんですが、周りのみんなは、低学年から中学受験を意識した生活をしてきて、早い子だと小学3年生から受験塾に通っているんですよね。芳樹が入塾したのは5年生の5月ですから、中学受験にチャレンジするには遅いスタートなんだということに、その時、初めて気が付いたような有様でした……」