『愛の不時着』をもし北朝鮮の人が見たら“大激怒”!? 中隊員が「韓国の自動販売機に驚愕シーン」があり得ないワケ
―― 一般の人たちが怒りそうなシーンはありますか?
李 中隊員が韓国を訪れた際、クム・ウンドン(タン・ジュンサン)が自動販売機に驚き、「中に人が入っている」と勘違いするシーンがありましたが、さすがにそれは……。北朝鮮の人たちをものすごく田舎者扱いしていると感じ、ここは怒るだろうなぁと思いましたね。また中隊員が、韓国の洋服店でダメージジーンズに驚くシーンも気になりました。北朝鮮ではあまりはかないでしょうが、外国人観光客がはいているのを見たことくらいはあるだろうと(笑)。それから、中隊員は、韓国にあるカップラーメンの種類の豊富さにも感心していたものの、最近では北朝鮮でも、韓国の商品に寄せたパッケージの辛ラーメンが人気で、とうもろこしやじゃがいも、そば粉など、さまざまな麺を使ったインスタント麺も増えているので、「ちょっとやりすぎな描写だなぁ」と思いました。
――北朝鮮の人にとっては、「反北ドラマ」と映るかもしれませんが、『愛の不時着』をきっかけに、北朝鮮にいいイメージを抱くようになった海外の視聴者も多いかもしれません。現に「北朝鮮旅行に行ってみたい」という人もいます。
李 北朝鮮への“観光”に関しては、ガイド役と運転手が常に一緒なので、必ずしも「行きたいところに行ける」わけではありませんが、平壌以外にも、ジョンヒョクが住む舎宅村に近い開城や、板門店、また経済特区である羅先などに足を伸ばすことができます。指導者をバカにするような言動を取ったり、監視役となるガイドの言い付けを破り、夜にホテルから抜け出したり、軍事施設や建設現場などを無断で撮影しなければ、安全に行って帰って来られます。北朝鮮は外貨を稼ぐための観光事業を重要視していますから。
でもやっぱりドラマはドラマ。『愛の不時着』をきっかけに「北朝鮮は怖い国じゃない」とするのは、間違いだと思います。実際に私が留学や観光で知り合った北朝鮮の人々は、人情味にあふれ、温かい人たちでした。北朝鮮には北朝鮮なりのロジックがありますし、政治と一般の人々を切り離して考えることも重要です。しかし、いまだ核を放棄していないですし、自国民や日本人拉致被害者への人権侵害を数多く行っているのは事実。そのことは忘れないで、『愛の不時着』を見ていただきたいなと思います。
李銀河(り・うな)
北朝鮮音楽研究家。平壌にある金元均名称音楽大学・専門部を通信受講生として修了。民間企業に勤務する傍ら、北朝鮮に関するイベントに出演、音楽や文化を通じて北朝鮮の政治情勢や人々の暮らしを紹介している。いまの関心事は北朝鮮のエネルギー問題。趣味はサイクリングと旅行と中国茶。