ネットワークビジネスの仲間を断ち切れない母――「怒りが湧く。自宅に来るのが怖い」介護する娘の心労
もうひとつの問題は、しょっちゅう晃子さんのもとにやってくる“仲間”だ。
「花を持ってきてくれたりして、外面は優しいんですよ。母はすっかり心を許しています。どんな会話をしているのか調べようと思って、仲間との話をかげで聞いてみたりもしました。どんな状況かはわかりませんでしたが、母のタブレットを借りて、何かの証拠を隠滅しようとしていたんです。また、振り込んでいるのは何の代金か母に聞いたら、『私にはわからないから、Aさんに聞いて』と言うので、その仲間Aさんに確認したところ、『私にもわからないので、ほかの人に聞いておきますね』と言ってはぐらかされました。あとで母のスマホを見ると、『娘さんの意見を聞くのはいいけど、最終的に決めるのはあなたよ』などとメッセージを送って、私の言うことを聞かないようにクギを刺していたんです。とにかく、この仲間が元凶。怒りが湧きましたが、母を否定してしまうとダメだし……」
しかし、中村さんは悩みながらも冷静だった。正面から、晃子さんときちんと話すという方法を取ったのだ。
「『いつか来る日のために、家族がケンカしないように準備をしよう』と母に遺言書を書くことをすすめました。そして、正直に『通帳を調べたら、大金がネットワークビジネスの会社に振り込まれていたのを発見した』、『法律的なことも調べて、家族といえどもほかの人の名前で契約するのは母の過失になる』と伝えました。そしてその会社にこれまで母がいくら使ったのか、どれだけの利益を出したのか、表をつくって数字として示したんです』
正攻法で来た中村さんに、晃子さんは怒ることも、拒否することもなかった。逆に、「今はそのビジネスをやりたくない」と打ち明けたという。
「おそらく母もネットワークビジネスに疲れていたんだと思います。それで、母には月にいくら使うか決めて、収支をノートに記入することを提案しました。そして定期購入も、これまでの契約も解約することにして、退会届を取り寄せることにしたんです」