「両親がいないという現実と空虚感に襲われる」介護を終えた娘が抱える思い
最後に直美さんは、「これだけは介護する子世代に知っておいてほしい」と、介護のポイントを挙げてくれた。
その1つ目が、ケアマネジャー選びの大切さだ。直美さんのケアマネジャーは3人が交代した。そのうち2人は病院の紹介だったが、老人保健施設探しなどは直美さんが一人でやるしかなかったという。
「介護用品や介護保険を使う自分の利益だけを目的にして、私や両親のことを見てくれていない、考えてくれていないのがよくわかりました。たとえどこの紹介であっても、自分の目で見て判断してほしいと思います」
2つ目は、お金のこと。両親が続けざまに倒れ、二人同時に入院していた時期も長かったが、謙作さんの年金が高かったため高額療養費の適用外だったという。高額療養費とは、医療費の負担が重くならないよう、医療機関や薬局で支払う医療費が1カ月で上限額を超えた場合、超えた額を支給してもらえる制度だ。上限額は年齢や所得に応じて定められている。
「母の年金は少なかったので、二人合わせると大した額ではありませんでした。それでも父一人の年金額が高いことで高額療養費は適用されないと言われました。入院中は個室料金やアメニティの料金も加算されるので、もっとも多い月には母だけで約50万円かかりました。父が亡くなったあとは負担が減ったものの、それまでに両親の蓄えはなくなってしまいました」
そのうえ両親が医療保険に入っていなかったことが、負担が増える結果になったと振り返る。
「父がまだ若く元気なときに保険のことを聞いたことがあるのですが、父からは『親が死んだときのことを考えているのか』と反発されてしまいました。せめて終身保険に入ってくれていたらと思いました」
さらに親の死後もお金はかかる。春木家には菩提寺もお墓もあった。それでも予想以上の出費となったという。
「葬儀や戒名、位牌、法事と、お金のかかることが続きます。お墓はありましたが、埋葬代も結構かかりました。菩提寺があるのなら、住職に葬送にかかる費用がどれくらいになるのか、確認してみることをおすすめします」
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直美さんの介護は終わった。それにしても――と思わずにはいられない。
謙作さんや八重子さんが退院して自宅に戻るときに、ケアマネが訪問医か訪問看護を入れてくれていれば。あるいは誰かしらのプロが、直美さん親子に寄り添い、支えてくれていれば……。
八重子さんがいよいよ危ないというときに、看取りの病院で穏やかな死を迎えることができていたかもしれない。救急病院で心臓マッサージを何度もしなくて済んだかもしれない。
「もし」を考えても詮ないことだ。親の死に際して、「あのとき、こうすればよかった」と後悔する子どもは少なくない。直美さんも、無理に前を向こうと思わなくてもいい。それでも、直美さんの心が満たされる日が来ることを祈りたい。