コラム
老いてゆく親と、どう向き合う?

老人保健施設で「廃人のようになった」母……「1カ月も放置された」と憤る娘の告白

2020/05/17 18:30
坂口鈴香(ライター)

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける” ――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

  そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

 春木直美さん(仮名・53)が父の謙作さん(仮名)を看取ったあと、母の八重子さん(仮名)も重篤な状態に陥る。入所していた老人保健施設で、数カ月の間異変を放置されたあげく、大量に下血して救急搬送されたのだ。

(前回:暴力と奇声、おむつに手を入れるーー精神状態が悪化した母は、リハビリ病院で拘束された

何かから解き放たれたようだった

soraraさんによる写真ACからの写真

 大学病院に搬送され一命をとりとめた八重子さんは、かかりつけの急性期病院に転院した。

 八重子さんの状態はとても悪く、何か触るだけで皮が剥けてしまう。栄養がまったく取れておらず、背中には水が溜まっていた。造影剤を投与するにも腎臓が対応できない。急遽、生理食塩水を“命の水”として点滴した。心臓をはじめすべての臓器の機能が低下していて、「やれることからやります」と医師に言われたという。

 それから2カ月小康状態を保ち、看取り専門の病院に移った。脳腫瘍が再発しているうえに、脳のほとんどが梗塞を起こしており、全内臓と心臓機能も低下していた。それほどの状態だったが、すぐ命にかかわることはないと言われ、「この病院なら家族も泊まり込むことができる。花が大好きな母にふさわしく、庭には花が満開で、スタッフも優しい。この病院で穏やかに最後まで過ごさせてあげたい」と直美さんは安堵していた。

 だが転院したその夜、八重子さんは急変した。

「転院するために車で搬送されたことが母の体に負担をかけたようです。翌朝、また下血しました。このときは娘が付き添っていたんですが、『うちの病院は看取り専門なので、治療はできません。ここで看取りをするか、救急搬送するか、ご家族で話し合ってください』と言われたと、娘から連絡が来たんです」

 娘のひとみさん(仮名・27)は、仕事で忙しかった直美さんに代わって育ててくれた祖母、八重子さんのことが大好きだった。「このまま何もしないで、後悔したくない」というひとみさんの気持ちを尊重し、直美さんも救急病院への搬送に同意した。

 そして運ばれた救急病院で、八重子さんは人工呼吸と心臓マッサージを施された。

「とうとう、娘は医師から『家族のどなたかを待っているんだったらまだ蘇生を続けますが、そうでないのならもうやめましょう』と言われたそうです。『もうこれで終わりにしていい?』と電話してきました。このとき、預かっている孫の体調が悪かったんですが、少し落ち着いていたので、孫を連れて急いで病院に向かいました」

 直美さんが病院に到着したときには、すでに八重子さんは亡くなっていた。

「何かから解き放たれたように、きれいな顔でした。白装束になったときには、以前のように美しい母に戻っていました。闘病生活を支えてくれた看護婦さんから、『本当に可愛くて元気をくれる八重子さんが大好きだった』と声をかけてもらえたのがありがたかったです」

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