コラム
老いてゆく親と、どう向き合う?

暴力と奇声、おむつに手を入れるーー精神状態が悪化した母は、リハビリ病院で拘束された

2020/05/10 18:30
坂口鈴香(ライター)

 不信感を抱いたまま、翌月に八重子さんのところへ行くと、状態はさらに悪化していた。

「食堂で車いすに座らされているけど、体は『くの字』に曲がって、ただテーブルの一点を見つめている。『お母さん』と呼んでも反応がない。医師に聞くと『顔にむくみが出ているので利尿作用のある薬を出している』ということでしたが、12月頭からの母の変貌が激しすぎる。脳梗塞をまた起こしているんじゃないかと思いましたが、それなら医師がわからないはずはないですよね」

 父の納骨が終わったばかりで頭が回らず、おかしいと思いながら、それ以上医師に問い詰めることもできないまま、後ろ髪をひかれながら帰宅した。その直後、八重子さんが大量に下血。施設の担当者から、十二指腸潰瘍の再発で救急搬送されたという連絡が入った。

「病院を7カ所もたらい回しにされたあげく、貧血で瀕死の状態になってやっと大学病院の集中治療室に入れたというんです。担当者は『いい加減にしてください』と怒っていましたが、私は預かっていた孫が熱を出していたので、病院には娘に行ってもらっていました」

 翌日、八重子さんがいた施設からかかって来た電話に、直美さんは絶句した。

「『もう施設を退居していただきたいので、荷物を取りに来てください』と。その事務的な口調に耳を疑いました」

ーー次回は5月17日(日)更新

 

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2020/05/10 18:30
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