テレビ界、ソーシャルディスタンスで4つの波紋――恋愛ドラマも「濃厚接触シーン廃止」?
オーバーシュート(感染爆発)、ロックダウン(都市封鎖)、クラスター(集団感染)と新たなカタカナ語が飛び交っている昨今。その中で最も注目を集めているのはソーシャル・ディスタンス、社会的距離という言葉だろう。周知の通り、新型コロナウイルス感染予防のために他者と一定の距離を保つことで、2メートルとされている。だが、この2メートルは「最低限の距離」とする識者もいる。
2メートルという距離は意識してみると意外に遠い。テレビ業界では、この距離をめぐって波紋が広がっているようだ。まず第一に、バラエティ番組で「無観客」が相次いでいる。『VS嵐』(フジテレビ系)『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)といった、観覧者のリアクションなどが場の雰囲気を作り上げていた番組でも無観客収録が始まった。さらに、4月16日放送の『ダウンタウンDX』(同)でも番組開始27年にして初の無観客収録が行われた。
観覧客だけではない。2つ目の変化には、出演者への対応が挙げられる。
「各ワイドショー・情報番組は、司会や主要メンバー以外のテレワーク(在宅)出演が主流に。しかし、司会から振られないと発言しないコメンテーターや、発言が司会と同時になってしまうケースもある。このままこの状況が続けば、存在事態が『不要』と判断されて、そのままフェードアウトしてしまう人も出てきそうです」(テレビ業界関係者)
もちろん単純にテレワークをするのではなく、いろいろ工夫や改善が見られる番組もある。
「『王様のブランチ』(TBS系)は、スタジオに同時に入るタレントの人数を2人に制限し、進行に合わせて順々に入れ替えるという手法を取り始めました。さらに18日放送のオンエアでは、なんと同番組の一般視聴者もリモートで生出演。タレントと一緒にVTRをワイプごしで見るという画期的な試みを取り入れてましたが、『斬新』という声の一方、『素人なんか見たくない』と不満がるユーザーもいるようです。また『サンデー・ジャポン』(TBS系)では、もともとひな壇だったのが、おそらく上の出演者からの飛沫感染を防ぐためなのか、スタジオ出演者は同じ高さの椅子に座るようになりました」(芸能ライター)
この『サンデー・ジャポン』のように、「ひな壇」を活用しているトークバラエティはどうなるのだろうか? 3つ目の問題は、こうした「ひな壇」番組だ。160人規模のタレントがひな壇に大集合し、クイズなどに挑戦する期首期末の人気番組『オールスター感謝祭』(TBS系)。こちらは今回の事態を受けて中止となったが、番組側はあくまで「延期」としている。
「トークが熱くなるあまり、ツバを飛ばすことで知られる明石家さんまの番組は気になりますね。『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)のような集団によるトークも、かなり距離を取らざるを得なくなるのかもしれません。もちろん『行列のできる法律相談所』(同)や『アメトーーク!』(テレビ朝日系)なども、それなりの距離をあけなければならないでしょう」(放送作家)
4つ目の問題はドラマ撮影だ。現在、ほぼ全てのドラマ撮影が一時中断しているテレビ界だが、ここで価値観の変換を求められるというのが「ラブストーリー」だという。
「恋愛ドラマはキスやハグ、時にはベッドシーンなど、濃厚接触のオンパレードです。これからの時代は、もしかしたら手を握るというシーンすらも非難されるかもしれない。そういう意味では1月クールにオンエアされ、ヒットした火曜ドラマ『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)こそ、人類最後の濃厚接触ドラマとして刻まれてしまう可能性もあります」(同)
これはもちろん極端な推測だが、今後はラブシーンでは革新的な撮影手法が必要になってくるか、出演者に対し「陰性」の証明書提出を義務化するなどして撮影に臨まないと、非難が降り注ぐのではないだろうか。
しかし、こうしたバラエティやドラマの制作姿勢に関し、前出のテレビ業界関係者は、こう警告する。
「コロナ禍の中、番組を作る上での非難を全て聞き入れていたら、テレビ局で放送するプログラムが何もなくなり、本当に首を絞めることになりかねない。『じゃあ再放送すればいいのではないか』という声もあるが、過去の名作ドラマも総集編や傑作選を流しているだけでは、実際に制作したことにはならないので、ギャラが入ってこないのです。もちろん、その危機的状況は観光業・飲食業も同様ではありますが」(同・関係者)
このように、コロナ禍の中、なくなる危険があるのはテレビの世界だけではない。映画、舞台、ミュージカル、ライブ、格闘技の試合、屋内のスポーツ大会も同様だ。気づいたときにはもう、映画館やコンサートホールは永遠に使われない廃墟になっているのかもしれない。
(村上春虎)