コラム
オンナ万引きGメン日誌

オンナ万引きGメン「1日に7人」捕捉! 最高記録を打ち立てた、忘れえぬ“あの日”

2020/04/11 16:00
澄江(保安員)

 当日の現場は、関東近県のベッドタウンに位置する総合スーパーY。全国展開するクライアント様の支店で、この仕事を始めた頃から絶えることなく契約をいただいている馴染み深いお店です。いわゆる低所得者層向けの団地が目立つ街並みは、飲み屋とパチンコ屋、それにファストフードの店ばかりで、あまり治安のよいところではありません。口の悪い保安員の間では「釣り堀」と称されるほど万引き被害が多く、集中的に保安員を導入して万引き犯確保の通報を入れすぎた結果、店の商品管理体制を強化するよう、所轄警察署から警告を受けるほどのポテンシャルを有しているのです。この店に行けば、なにかが起こる。そんな現場の代表格と言えるでしょう。出勤時、現場に向かうべく駅前交番の前を通いかかると、立番をしていた顔なじみの中年警察官から声をかけられました。

「あれ? 今日、入っているんですか? 参ったなあ。お手柔らかに、お願いしますね」
「おはようございます。後ほど、お呼びするかもしれませんが、よろしくお願いいたします」

 私の登場に顔をしかめる警察官を笑顔でかわして、そそくさと事務所に向かい、副店長から昇格したばかりだという新店長に挨拶を済ませます。

「しばらくお願いしていなかったんだけど、本部に掛け合ってようやく入れてもらえたの。かなりひどい状況だから、ガッツリとお願いしますね」

 自分が店長になったからには、万引きを見逃したくない。そんな気持ちがあるらしく、今日はとことん付き合いますと、すでに鼻息を荒くしています。結果を出して当然と言わんばかりの圧力を感じながら事務所を出て、食品売場に通じる階段を降りると、すぐ目の前でカゴの中にある商品をバッグに移し替えている女性を発見しました。我が目を疑う光景に動揺しつつも、そっと身を隠して彼女の行動を見守れば、棚から取った商品をカゴに入れては死角通路でバッグに隠すという行為を繰り返しています。

(あ、あの人もやってる!)

 その現認中に、70代と思しきホームレス風の男性が、お弁当とカップ酒を競馬新聞に包んで出て行く一部始終も目撃してしまいました。女より先に店を出たので、たまたま近くにいた店長と一緒に、店の外で男性を呼び止めます。

「申し訳ない。競馬で負けちゃって、金がないんだ」

 暴れることなく素直に認めてくれたので、事務所への同行は店長に任せて、急いで店内に戻って女の監視を続けます。2分ほど目を離してしまいましたが、商品を隠したバッグの形状に変化はなく、いくつかの商品を隠匿するところもあらためて現認できました。なに一つ買うことなく店の外に出た女が、出口脇に停められた自転車のカゴに盗品を詰めたバッグを入れたところで、声をかけます。

「店内保安です。そのバッグに入れたモノ、お支払いただきたいのですが」
「はあ? なんですか? どれですか?」
「あんなにたくさん入れたのだから、私の口から言うまでもないでしょう?」
「すみません、ごめんなさい……」

 抵抗空しく犯行を認めた女を事務所に連れて行くと、先程声をかけたホームレス風の男性が、テーブルに置かれたカップ酒と弁当を前にうなだれていました。その横で腕を組み、男を見下ろす店長に、女を引き渡します。

「まだ10分もたっていないのに、忙しいですね。まだ来るかもしれないし、ここは見ておきますから、警察官が来るまで巡回していてもらえますか?」
「わかりました。なにかあったら呼んでください」

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