韓国映画『ミッドナイト・ランナー』での「朝鮮族」の描かれ方と、徹底的「偏見」の背景とは
とりわけ私を驚愕させたのは、韓国公共放送KBSのお笑い番組だった。映画『哀しき獣』に登場する朝鮮族マフィアのコスプレをしたお笑い芸人たちが、オレオレ詐欺をするというコントが、ほぼ1年間にわたって毎週放送されたのだ。しかも、年間で最も優れた番組を表彰する「KBS芸能大賞」のお笑い部門で、このコントが「最優秀アイディア賞」を受賞するという始末。朝鮮族の当事者や2世、3世の子どもたちがどんな思いをするか、そんな当たり前の想像力すら持てないこの公共放送の徹底した無神経ぶりに、私は心の底から失望した。
こんな状況を生んだ責任は、犯罪ばかりをクローズアップして報じてきたメディアにあると断言できる。韓国に暮らす70万人の朝鮮族を潜在的な犯罪者として扱うのは、あまりに理不尽だ。にもかかわらず、メディアが量産したステレオタイプを無批判に取り込み、その再生産に加担した映画の責任も無視できない。韓国映画は、一体いつになったら本当の意味で朝鮮族を「描ける」ようになるのだろうか? 在日朝鮮人の中から崔洋一や李相日といった監督が輩出されたように、後の世代を待たなければいけないのだろうか?
韓国に留学した際に受けた朝鮮族に対する日常的な差別を『日本人のための「韓国人と中国人」――中国に暮らす朝鮮族作家の告白』(原題の直訳は『韓国はない』)として上梓した作家・金在国は、韓国での差別がむしろ「中国人である自分に気づかせてくれた」といい、「私の名前はキム・ジェグク(韓国語読み)ではない。ジン・ザイグォー(中国語読み)だ」と語る。彼のみならず、恐らく多くの朝鮮族にとって韓国との再会は、「同じ民族同士の喜び」から「他者という失望」へと変容しているだろう。だがそれでも、再び「再会の喜び」を手にする日への希望は持っていたい、と思う。
歴史について多く語ってしまったが、最後に再び映画の話題に戻って終わることにしよう。なんでも日本では4月から、本作『ミッドナイト・ランナー』のドラマ版が放送されるらしい。主演はジャニーズの中でも乗りに乗っているSexy Zoneの中島健人とKing&Princeの平野紫耀。『未満警察 ミッドナイトランナー』(日本テレビ系)と題されたこのドラマ、日本を舞台に、果たしてどんな「敵」が待ち受けているのだろうか?
崔盛旭(チェ・ソンウク)
1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。