ジャニーズ・ラウールとディオールコラボの意義――化粧品業界を席巻する「男性モデル」と、韓国コスメの広告事情
日本ではこれまで、男性タレントが化粧品のコマーシャルに登場することはめったになかった。しかしお隣韓国に視線を移すと、男性タレントがコスメブランドのイメージモデルに起用されるのは、ごく普通のことだ。例えば、08年にThe Face Shopのイメージキャラクターになっているのは、第1次韓流ブームを牽引したペ・ヨンジュン。当時は、スター俳優が男女そろってコスメブランドのイメージキャラクターとして起用されることが多かったようだ。
続いてK-POPブームが訪れると、男性アイドルが単独で起用されるようにもなる。その先駆けとなったのが、2PM(It’s Skin/10年)、SHINee(ETUDE HOUSE/11~13年、the SAEM/14年)などだろう。韓国の男性アイドルは当時からしっかりとステージメイクを施す傾向にあり、化粧品との親和性も高かったと考えられる。
彼らが起用された一番の理由は、韓国国内はもちろん、海外市場への訴求力をも備えていたからだ。韓国では国策としてK-POPを世界へ売り込み、彼らをアジア圏全土のポップアイコンにまで育て上げた。化粧メーカーが彼らを広告塔に据えることでインバウンド需要を伸ばそうとしたことは、想像にかたくない。実際にその戦略は功を奏し、日本国内の主要都市にも韓国コスメの路面店が次々とできていった。
10年の後半になると、欧米でもコスメブランドが男性モデルとタッグを組む例が見られるようになった。それを後押ししたのは、インターネットを通して人気を博したメンズビューティーブロガーたちだ。16年、アメリカのプチプラコスメブランド「COVERGIRL」が、美容系YouTuberのジェイムズ・チャールズをイメージモデルに起用。コスメブランドに17歳の一般人男性が登場するという画期的な試みに賛否両論が巻き起こった。続いて17年には、アメリカの老舗プチプラコスメブランド「メイベリン」が、人気インスタグラマーのマニー・グティエレスを起用している。
ジェイムズ・チャールズやマニー・グティエレスは、日本で言えば、りゅうちぇるのような存在だ。YouTubeやInstagramでメイクのチュートリアルを公開するなど、メイクを楽しむ姿を生き生きと表現。性自認や性志向にかかわらず、メイクが男性の自己表現たり得ることを証明した。そして、それは化粧品業界が新たに目指すべき市場拡大の可能性でもあったのだろう。
実は、それまでも男性向けにスキンケア製品を展開するブランドは存在した。しかしほとんどの場合、メイク用品は扱われておらず、前述した男性美容YouTuberも女性向けのメイク道具を使用していたのだ。そんな中、18年、老舗高級ブランド「シャネル」が初の男性用メイクアップライン「ボーイ ドゥ シャネル(BOY DE CHANEL)」を韓国と日本で展開すると発表。歴史ある有名ブランドが男性向けのメイク市場に参入したことは、センセーショナルな出来事だった。
同時に2010年代後半頃から、女性/男性という性別の垣根をなくそうとする風潮が世界的により強くなっていく。19年には世界的コスメブランド「パルファム ジバンシイ」が、男女問わず使えるジェンダーフリーなメーキャップシリーズとして「ミスター(MISTERS)」を発売。“男性用”もしくは“メンズライン”という性別によるカテゴライズからさらに一歩進み、ジェンダーフリーを謳ったメイクアップラインが生まれたのだ。