カルチャー
【前編】朝日新聞社・仲村和代記者インタビュー

ファストファッションの功罪――「安くておしゃれな服」を支える過酷な労働環境と大量廃棄

2020/03/04 21:00
サイゾーウーマン編集部

崩壊した商業ビル「ラナ・プラザ」:Photo by rijans from Flickr

――13年4月24日、バングラデシュの首都ダッカ近郊の縫製工場が入った商業ビル「ラナプラザ」が崩落し、死者1,100人、負傷者2,500人以上を出す最悪の事故が起こりました。この縫製工場が手掛けていた洋服は、欧米諸国をはじめ、日本人もよく購入するファストファッションブランドのものも含まれていたとか。日本でもこの事故が報道され、話題になりました。

仲村 多くの人が、アパレル業界の裏側を考えるきっかけになったと思います。事故前日、ビルに亀裂が発見され、使用を中止するよう警告が出ていたのにもかかわらず操業し続けたことを考えると、これは“人災”ですよね。工場の責任者を責めるのは簡単ですが、彼らもまたグローバル企業の下請けや孫請け。発注している側のことを見過ごしてはいけません。一度「できない」と断ったり、納期が遅れたりすれば、他社に仕事が流れ、結局、労働者の給料が払えなくなる。安全性に問題があっても操業を続けざるを得ない状況を生み出している企業の側や、それを知らないとはいえ、企業を支持してきた私たち消費者自身のことも、考えなければならないと思います。

――人件費がかなり安いということですが、労働環境はどうでしょう。また、どのような人が働いているんですか。

仲村 80%以上が女性で、時給換算して数十円で長時間働かされ、病気になったらクビになってしまう。農村から子連れで出稼ぎに来ている女性たちもいますが、子どもを預ける場所がないため、3~4歳の子どもを1人で留守番させていることもあります。子どもを地元に残し、1年に一度しか子どもに会えないということもあるそうです。こういった現状を、多くの日本人が知らないのでは。

――そもそも、アパレル業界について深く考えずに、洋服を購入している人が多いのかもしれませんね。なぜ、女性たちは、過酷な労働環境を選ばざるを得ないのでしょうか。

仲村 バングラデシュでは女性の地位が低く、女性が働ける場は家政婦など限られた場所だけでした。縫製工場ができたことで、働く場所ができ、女性の社会進出を進めたというプラスの面があることも事実です。女性たちからすれば、劣悪な環境とはいえ仕事がなくなるよりはマシ、という思いもあるのでしょう。職を失えば、生活が立ち行かなくなり、子どもは学校に行けず、教育も受けられなくなる。「働かざるを得ない」状況なんです。

 ただ、工場内ではセクハラや暴力、給与未払い、劣悪な労働環境など、さまざまな問題が起きていて、彼女たちがそのような問題を訴えることすらできない状況があります。事故後、アパレルメーカーが縫製工場を調査する監視機関を設置するなど、いろいろなムーブメントが起こったものの、現地の方に聞くと、残念ながら現在もあまり状況は変わっていないようです。私たちは彼女たちの存在を忘れてはいけないと思います。こうした実態については、現地で詳しい調査をした茨城大学の長田華子准教授に詳しく教えていただきました。中高生向けにわかりやすく書いた著作もあるので、ぜひ読んでみてください。

――過酷な労働環境といえば、19年6月、NHKのドキュメンタリー番組『ノーナレ』が、愛媛県今治地域の縫製工場で働くベトナム人技能実習生たちの過酷な労働実態を取り上げました。1カ月の残業が180時間を超えるという内容でしたが、バングラデシュでの問題と同様の事案が日本でも起こっているのでしょうか。

仲村 同じような状況は、私たちの身近なところでも起きています。アパレル企業が人件費の安い国に発注するようになり、日本国内の縫製工場はどんどん衰退していった。工賃が非常に安くなり、働いている人たちに十分な給料を支払えません。中には、「技能実習生」という名目で受け入れた外国人を、国が定めた最低賃金を下回る不当な賃金で働かせている工場があり、問題になってきました。残念ながら、セクハラや性的嫌がらせ、給料の未払いなどの問題がある場合も少なくありません。本来、外国人技能実習制度は日本で技術を学び、母国で生かすことを目的としていますが、ひたすら同じ作業をさせられ、技術も身につかない状態で、ただただ安い賃金で長時間労働させているところがある。また、外部との接触を禁止され、日本語もままならないので、自分の置かれた状態が違法であることすら知らなかったり、おかしいと思ってもどこに訴えるのかもわからなかったりします。こうした実情が支援団体などを通じて少しずつ伝えられるようになり、国もようやく、そのような受け入れ団体への監視強化などを盛り込んだ法律を制定するなど、改善に向けて動くようになりました。

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仲村和代(なかむら・かずよ) 
朝日新聞社会部記者。1979年、広島県生まれ。沖縄ルーツの転勤族で、これまで暮らした都市は10以上。2002年、朝日新聞社入社。長崎総局、西部報道センターなどを経て10年から東京本社社会部。著書に『ルポ コールセンター 過剰サービス労働の現場から』、取材班の出版物に『孤族の国』(ともに朝日新聞出版)、共著に『大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実』(光文社新書)がある。
Twitter: @coccodesho

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最終更新:2020/03/06 11:33
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