『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』難病宣告を本人にしなかった時代「ザ・ノンフィクション 花子と大助 ~余命宣告から夫婦の700日~ 前編」

2020/02/25 17:25
石徹白未亜(ライター)

30年間で変わった医療

 花子がこう言えるのは自分の病名を知っていたからこそだろう。しかし30年前とて、医療機関も大助も意地悪で告知しなかったのではなく、それが本人にとって善かれと思って黙っていたのだ。「国立がん研究センターがん情報サービス」のウェブサイトに、部位別のがん死亡率の推移グラフ「部位別がん年齢調整死亡率の推移【女性1958~2015年】」がある。これを見ると男女とも、「胃がん」は時代が進むにつれ明らかな右肩下がりになっている。ほかのがんよりも治療方法が発展したといえるだろう。

 しかし花子が胃がんになった1988年時点を見ると、どのがんより死亡率は高い。こういった背景が、“告知しない決断”に影響したのは想像に難くない。それでも、自分を苦しめる病気の正体が、知らされているものとは違うのではないか? と家族や医療関係者に疑いを抱きつつ、病の苦しみに向き合う状況は想像するだけで孤独で恐ろしい。

 それから30年後の現在、告知が当然となったのは大きな変化だ。もしかしたらこの先30年後、2050年の医療水準や価値観で現在を見たら、不思議としか言いようのない言動があるのかもしれない。最善の手法なんてものは、時とともに変わるのだろう。

 次週の『ザ・ノンフィクション』は今回の続編となる『花子と大助 ~余命宣告から夫婦の700日~ 後編』。車いすで会見に臨んだ花子が、舞台のセンターマイクで大助と漫才をすることを願い、リハビリに励む日々を伝える。

国立がん研究センターがん情報サービス


石徹白未亜(ライター)

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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いとしろ堂

最終更新:2020/02/25 17:25
「先生はウソを言った」 ガン告知の現場から
30年前はQOLという概念も薄かった