カルチャー
インタビュー

なぜ「不妊」「不妊治療」はタブーなのか? 「セックスしたら妊娠するのは当たり前」という勘違い

2020/02/15 17:00
サイゾーウーマン編集部

――そもそも、なぜ「子どもはできて当たり前」という偏見・勘違いが、これほどまで世間に浸透しているのでしょうか。

松本 日本の性教育が影響していると思います。学校の教科書では「生理→妊娠の仕組み→性病と中絶」と順を追って学ぶと思うのですが、そこに「不妊」がない。「生理のある人がセックスしたら妊娠する」という前提のもと、避妊方法などは教わる一方、「セックスしても妊娠しないことがある」とは教わらないんですね。性に関する話は家族の間でもしにくいだけに、不妊や不妊症への偏見・勘違いは、教育のところから変えていかないと解消しないと感じています。

――確かに、不妊について学校で学んだ記憶はありません。

松本 セックスしたら妊娠“してしまう”というニュアンスで教わった人も多いと思います。日本の性教育は遅れている、アンタッチャブルな分野と言われていますが、今後もっと切り込んでいかなくてはいけないと感じます。不妊に関して言えば、不妊自体や人工授精・体外受精の治療を教えるだけでなく、精子提供・卵子提供によって妊娠・出産する人もいること、さらに発展させて、さまざまな家族の在り方として、養子縁組などについても扱うべきではないでしょうか。海外にはそういったことを教えているところも実際にあるんですよ。

――教育以外でも、世間の不妊への意識を変えていく方法はありますか。

松本 国が不妊や不妊治療に関する取り組みを行うことで、人々の意識が変わることはあると思っています。今年の春、厚生労働省が不妊治療と仕事の両立支援のため、企業向けのマニュアルを出すことになったんです。また6月から施行される「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」にも、不妊治療を行っている人に対するハラスメントが対象に入ることになりました。これまで市民権を得ていなかったように思う不妊の当事者の状況が、少しずつではありますが、変わってきたと思います。このように、国側の取り組みがきっかけで、人々が「もしかして不妊の人っていっぱいいる?」「自分の周りにも不妊治療をしている人がいるかもしれない」と気づき、決して特殊ではないという認識が広がっていってほしいですね。

――そうした制度や法律が、「子どもはできて当たり前」の空気をなくし、めぐりめぐって、不妊に苦しむ当事者を救うことにもつながるといいですね。

松本 ただそうなるためには、例えば、会社に不妊治療をめぐる制度ができても、使えなかったら意味がない。不妊治療は生理周期に合わせて突発的で頻回な通院が必要で、クリニックに行くと想定外の通院予定を言われることも多いのに、「不妊治療の休暇制度は1カ月前に申請を出さないといけない」というルールを敷く会社も実際にあると聞きます。せっかく制度をつくってくれているのに、実情に即していないものであると、当事者が使えず、もったいないことになりかねません。何も不妊治療に対して新しく制度をつくってほしいということでもなく、現状の制度を「不妊治療にも」使えるようにしてもらえれば、それでも十分助かる人は多いはずです。また制度をつくること自体より、“風土”が大事という点にも、注視していかなければいけません。せっかく制度があるのに、それを使いづらい風土があっては、結局絵に描いた餅になってしまいます。それが最ももったいないことではないでしょうか。

 社会が、突然ガラッと変わることはないと思いますが、だからこそ、学校や職場でちょっとずつちょっとずつ妊娠の正しい情報、不妊についての啓発を行い、“刷り込み”をしていき、人々の意識が変わっていく……そして、不妊当事者が「自分はおかしい」「人に言えない」と悩むことがなくなる社会になっていってほしいと思います。

松本亜樹子(まつもと・あきこ)
「NPO法人Fine」理事長。一般社団法人日本支援対話学会理事。長崎県長崎市生まれ。コーチ、人材育成・企業研修講師、フリーアナウンサーとして活躍。自身の不妊体験から2004年、「NPO法人Fine」を立ち上げる。著書に『不妊治療のやめどき』(WAVE出版)がある。

NPO法人Fine
不妊体験者による、不妊体験者のための、セルフサポートグループ。「『不妊』や『不妊治療』が、社会全体にもっと正しく理解され、不妊治療を受けることや、それを受けずに自然にまかせて授かる日を待つこと、また夫婦二人の道を選ぶこと、あるいは養子や里子を迎えることなど、不妊に関わるすべてのことが『ごくありふれた普通のこと』になること」を理想に掲げ、講演会・シンポジウム、勉強会等の開催、カウンセリング事業、公的機関・医療機関等、関係各機関への働きかけなど、不妊にまつわるさまざまな活動を行っている。
連絡先:Eメール npofine@j-fine.jp/Fax 03-5665-1606
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最終更新:2020/02/15 17:00
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