抗議団体はトップレス集団以外も! フランスのフェミ事情を『私のおっぱい戦争』リリ・ソン氏に聞く
29歳で乳がんと診断されたことをきっかけに、自らの日常と病気についてユーモアを交えて語るオールカラーの漫画ブログを開設し、のちに、そのブログがミシェル・ラフォン社からコミックとして出版されたフランスのコミック作家、リリ・ソンさん。2019年には、日本語版の『私のおっぱい戦争――29歳フランス女子の乳がん日記』(花伝社)が刊行され、同作で「女性の体」や「女らしさとは何か」といった問題について表現している。前編ではリリさんに、自身がフェミニズムを意識するようになったきっかけや、フランスにもある「完璧な母親像」についての見解をお聞きしたが、後編ではフランス人女性が行う抗議運動に関して話をうかがった。
(前編:『私のおっぱい戦争』リリ・ソン氏に聞いた、フランス人も悩む「完璧な母親像」「女性らしさ」とフェミニズム)
流行の話題として扱われてしまうフェミニズム
──フランスでは女性誌の記事などでも、「フェミニズム」といった言葉がごく普通に登場すると聞きました。フランスではフェミニズムの主張や意義などが、一般に浸透しているのでしょうか?
リリ・ソンさん(以下、リリ) 確かに、フランスの女性誌はフェミニズムについて語り、誌面にはフェミニストたちが使う言葉も登場します。でも、私に言わせれば、女性誌は“闘っている”のではなく、単に今はやりの話題に乗っているだけ。フェミニズムの記事と同時に、女性は痩せているべきだとか、ムダ毛のないスベスベした肌でないとダメだとか、ダイエットすべきだとか、セックスの場面では相手の言うことを聞かなきゃダメだとか、さまざまな規範を女性に押しつけ続ける記事を掲載しています。
現実問題、2019年には、DVなどが原因となって女性が殺害された「フェミサイド(※1)」が145件も起きているんです。また、政府は、女性支援団体のための予算を計上しませんし、男性の育児休暇の義務化など、政治的措置を取っていません。
一般の人々も、男女の不平等などの事実については認識していますが、フェミニストの闘いはいまだに非常にネガティブなものとして受け止められることが多いです。家父長制が男性の得につながりますし、男性には自分たちの特権を女性と分かち合う気がないのでしょう。
※1 ラテン語のfemina(女)と-cide(殺す)から作られた言葉で、文字通り訳せば「女性殺人」だが、近年の用法では「女性に対する憎悪による殺人」や「DV殺人」を意味する。