普通の女の子が力を合わせ、自ら道を切り開く――「プリキュア」に見るシスターフッドの力
放送開始から16年、女の子向けアニメとして高い人気を誇る「プリキュア」シリーズ(毎週日曜放送、ABCテレビ・テレビ朝日系列)。16作目の『スター☆トゥインクルプリキュア』が1月26日、最終回を迎える。
過去作品の多くは「地球」を中心に物語が展開されてきたが、今作ではその舞台を「宇宙」へと広げ、史上初めて異星人のプリキュアも誕生。さまざまな価値観や考え方を持つ者同士の共生を、子ども向けにわかりやすく伝える描写が話題を集めた。
主なターゲット層は、3~6歳の女の子に設定されているこのアニメ。だが、一緒に鑑賞する親をはじめとして、大人からの支持も高い。30代の筆者もその一人だ。子どもはいないし、女性だが、幼少期にプリキュアを見て育った世代にも当たらない。それでも毎週放送日の朝は、欠かさず録画予約を入れた上で、リアルタイム視聴のためテレビ前に待機する。つらいことがあったり、気合を注入したかったりするとき、ふと気がつくと主題歌を口ずさんでいる。「プリキュア」に、これほど魅了されるのはなぜなのだろうか?
「プリキュア」と「セーラームーン」の大きな違い
全く見たことがないという読者のために説明しておくと、「プリキュア」とは、敵に立ち向かうために女の子たちが変身する戦士の名前だ。どのような敵と、なぜ戦うのかという設定は作品ごとに変わるが、初代『ふたりはプリキュア』(2004~05年放送)以来、通底している「プリキュアらしさ」のひとつが、シスターフッド(女性同士の絆)が魅力的に描かれていることだ。
つまり、ある女の子が、個性も得意なことも異なる別の女の子との出会いを通じて成長していく「ガール・ミーツ・ガール」の構造が貫かれている。サポート的な立場の男性キャラクターが活躍することもあるが、あくまでも女の子たちは自らの頭で考え、動き、道を切り開いていく。
女の子同士の連帯を描いている点では、1990年代を代表するアニメ『美少女戦士セーラームーン』(テレビ朝日系)と通じる。だが『セーラームーン』では、主人公・月野うさぎの前世はプリンセスだ。彼女を守護するほかの戦士との間には、立場の違いもある。一方、プリキュアたちの関係は、対等な存在同士が共闘する「バディもの」が下敷きになっている。
例えば、『ふたりはプリキュア』の主人公である美墨なぎさ(キュアブラック)と雪城ほのか(キュアホワイト)は、ともに中学生。同じクラスだが、なぎさはラクロス部で活躍するいわば体育会系、一方のほのかは科学部所属で、クラスメイトから「蘊蓄(うんちく)女王」と呼ばれているようなタイプだ。昼ご飯を食べたり、放課後の時間を過ごしたりする仲間はそれぞれ別にいて、「美墨さん」「雪城さん」と少し距離を置いて呼び合う仲。そんな「異質」な女の子同士がプリキュアになることで、バディを組まなければいけなくなる。
同作のコンセプトは、「女の子だって暴れたい」。初代プロデューサーの鷲尾天氏が意識したのは、映画『48時間』や『リーサル・ウェポン』だったという。格闘マンガ顔負けの激しい肉弾戦を展開するのも、現在まで受け継がれる特徴だ。プリキュアたちは、うわべだけの「なかよし」ではなく、時には大人も胸をえぐられるようなぶつかり合いを乗り越え、絆を強めていく。『ふたりはプリキュア』第8話で、なぎさがほのかに「あなたなんてプリキュアってだけで、友達でもなんでもないんだから!」と言い放ってしまうシーンは象徴的だ。その後、40話以上のエピソードを積み重ねる中で、視聴者はバラバラだった2人が唯一無二のバディへと成長するさまを目撃する。
プリキュアが貫く「関係性の核」とは
プリキュアシリーズにおいて、主な転機は過去に2回あった。まずは『Yes!プリキュア5』(07~08年)。ここを境に戦隊モノを意識したチーム制が採用され、「ふたり」という冠が外れる。さらに、『Go!プリンセスプリキュア』(15~16年)。あえて「プリンセス」というモチーフを前面に出した上で、従来の「お姫様は守られる存在」というイメージを刷新した。以降は、同様に「魔法」や「宇宙」などのモチーフを設定し、社会性も意識した内容が目立つ。
だが、「私と、私とは違うあなたが手をつなぐことで強くなる」という関係性の核は変わっていない。16作目の『スター☆トゥインクルプリキュア』は、「ヒーロー」であるはずのプリキュアがほかの星では「侵略者」と呼ばれたり、プリキュアの敵対勢力「ノットレイダー」を絶対的な悪として扱わない描写がされたりした点で新しかった。しかし、相いれない相手を力でねじ伏せるのではなく、認め合い、手をつないだ先にこそ力や希望が生まれるという世界観の前提には、初代の『ふたりはプリキュア』からの伝統がある。シスターフッドは、世界を救うのである。