サッカー部の万引き少年が、逃走中に事故! 右足があらぬ方向に……それでも「同情できない」Gメンの胸中
どこで何を盗まれてもおかしくない状況なので、自分の勘に任せて被害の多そうなフロアを中心に巡回していると、しばらくして家電フロアのドライヤーコーナーで眼(がん)を振る(あちこちに目を飛ばして周囲を警戒すること)ブレザー姿の高校生らしき少年が目に止まりました。前髪と襟足だけが異常に長い鶏冠のようなヘアスタイルと、ワイシャツの裾をズボンから出したままにしているだらしのない姿が印象的な少年で、ディスプレイされたくるくるドライヤーを手に、異様なほど鋭い目つきで周囲を窺っていたのです。目を離せない気持ちになって、少し離れたところから行動を見守っていると、鶏のような動きであちこちに視線を飛ばした少年は、ブレザーのポケットから小さなニッパーを取り出しました。そして、くるくるドライヤーのサンプル品につけられたワイヤーを切断すると、それを手に持ったまま下りのエスカレーターに乗り込んで、そのまま外に出て行ってしまいます。
「こんにちは、お店の者で……待ちなさい!」
声をかけると同時に、少年は脇目も振らずに走り出し、隣接する駐車場に逃げ込んでいきました。慌てて後を追えば、駐車場の管理をしているおじさんの制止を振り切って、場内に侵入していく姿が確認できます。駐車場の出入口はひとつしかなく、周囲の壁も越えられる高さではないので逃げ場はありません。行き場を失い、駐車場の隅まで追い詰められた少年に、努めて冷静に優しく声をかけます。
「危ないから、逃げないで。大丈夫だから、ね?」
そう言いながら、袖口を掴むべく距離を詰めると、少年は素早く身を捩り、右へ左へと素早いステップを踏んで、私の前から姿を消しました。
「待ちなさい!」
慌てて振り返ると、心配して様子を見に来てくれていたおじさんが両手を広げて少年の行く手を阻んで見せましたが、同じようにステップを踏まれて、あっという間にかわされてしまいます。
「いやあ、悔しいなあ。あんなに速くちゃあ、捕まえられないよ」
「ああ、逃げられちゃった。私、ここの保安員なんです。あとで説明に来ますね」