パート先の介護サービスがきっかけに――老夫婦、妻の決断「夫のことは支えるが……」
「その人に家の話をするようになって、ずいぶん救われました。その人も送迎のアルバイトをするくらいだから、事情はうちと似たりよったりだったんだと思います。夫のことを打ち明けると、『男ってそんなものですよ。何も言わなくても、つらい思いをしているはずなので、今は黙っておいた方がいい』と言ってもらい、そんなものかと思えるようになりました」
その後、その男性は再就職先が見つかり、運転手を辞めた。折田さんは、保育士の通信教育を受け、猛勉強をして保育士の資格を取った。今は保育所の非常勤職員として働いている。稔さんも、小さな会社に再就職することができた。
「夫もなんとか就職できてホッとしましたが、お給料は悲しいくらい安いです。週末には、お小遣い稼ぎのために近くのホームセンターで駐車場の誘導員をしています。そんな姿を見ていると、バリバリ稼いでいたころの夫と比べてしまうし、かわいそうだなと思います。縁があって家族になったんだから、義父のように夫を支えていかなくてはならないとも思っています。ただ、夫のことが今も好きか、と問われれば、もう好きだとは思わないです」
折田さんは、今でもデイサービスの運転手だった男性とときどき会っている。
「その人とお茶を飲みながら、たわいもな話をするのが今の一番の楽しみ。そういう存在の人がいるだけで、私の人生も捨てたもんじゃないなと思えるんです」
LINEでやりとりもしている。後ろめたいことはしていないというが、子どもに見られて誤解されたくないので、すぐに消している。そして、折田さんはまもなくおばあちゃんになる。
「苦労させてしまいましたが、子どもたちも社会人になりました。長女は家庭を持って、もうすぐお母さんになるんです。これでようやく一段落ついたなと思っています。これからどんな人生が待っているかはわかりませんが、長女が夫婦で支え合って、家庭を築いていければそれでいいと思います」
折田さんのスマホには、時おりLINEの着信を知らせる音が鳴っていた。折田さん夫婦の「つじつま」はどこで合うのだろう。