インタビュー【前編】

【森下くるみ×伊藤和子弁護士対談】『全裸監督』黒木香さんから考える「AV女優の人権」とは

2019/12/26 19:00
池守りぜね(ライター)

他者が黒木香さんの人権を考えるということ

――この対談テーマを行うにあたって、黒木さんのお名前を出すこと自体が、ご本人に苦痛な思いをさせてしまうのでは……と考えたことがありました。

森下 ネット検索すれば顔写真くらい簡単に出てきますもんね。もし黒木さんが日本国内で暮らしておられて、「過去を詮索されたくない」と思っていたら、ただとにかく申し訳ない……。

 でも、黒木さんのプライバシー権については、引退した女優さんだけではなく、現役の女優さんにも身近なこととして考えてもらいたいです。活動を停止した後、ふと「『AVに出る』という自分の決断は正しかったのかな」って悩む人はいると思うんですね。後悔する人もいるかもしれない。誰のせいにもできず自責の念に囚われて、なんてふうにならないように、理論的な言及を続けなければいけないと思います。誹謗中傷なんかも、女優ではなく、無責任に言いがかりをつけてくる方が悪いんです。中傷する人は、本当にねえ、20年たっても言うことが変わらないので。私は図太い方なので割りと平気ですが……(苦笑)。

伊藤 黒木さんが発言をされていないのでわかりませんが、「誰も私の立場に立って考えてくれない」という世の中よりも、「誰かが自分のことを気にしている」「この問題に関心を持っている人がいる」ってことが、救いになることもあります。

 女性の人権に関わる問題って、世間が“無関心”になりがちで。誰かが「これでいいの?」って声を上げることで、もしかしたら悩んでいる本人に届くかもしれないんです。理不尽な目に遭ったり、女性の人権が侵害されているんじゃないかなって悩んでいる人が、自ら声を上げられないとしても、周りが声を上げてくれる……それだけでも意味がありますからね。みんながその状況を無視していると「仕方ない」という空気が流れていきますし、みんなが関心を持つことが大事だと思います。日本の法律制度では、権利が侵害されていても、裁判を起こさない限り被害者は保護されなし、改善されない。でも声を上げること、まして裁判することって大変なことなので、周囲のみんながサポートしてあげることが大事。だから「#MeToo運動」というものもあるわけです。


 日本の「#MeToo運動」では「声を上げた人を叩く」という風潮もすごく強い。AV強要問題を扱っている中でも、身元を特定するような言い方でバッシングを受けた方もいました。でも、たとえ声を上げた人に同調する意見を述べることは難しくても、どこかで連帯して、励まし合っていくみたいなことがないと、前に進んでいかない。何もしないままだと女性差別がどんどん進んでいってしまうんじゃないかなって思うんです。

――後編はこちら

伊藤和子(いとう・かずこ)
弁護士 国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長
1994年弁護士登録。女性や子どもの権利、えん罪事件、環境訴訟など、国内外の人権問題に関わって活動している。2004年に日弁連の推薦で、ニューヨーク大学ロースクールに客員研究員として留学。06年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外の深刻な人権問題の解決を求め活動中。また、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々奔走している。近著に『なぜ、それが無罪なのか 性被害を軽視する日本の司法』(ディスカヴァー携書)ミモザの森法律事務所(東京)代表

森下くるみ(もりした・くるみ)
文筆家 1980年秋田県生まれ。『小説現代』(講談社)2008年2月号に短編小説『硫化水銀』を発表。初の著作『すべては「裸になる」から始まって』(講談社文庫)は2012年に映画化、2018年に電子書籍としてkindle singlesで発売。他の著書に『らふ』(青志社)、『36 書く女×撮る男』(ポンプラボ)、『虫食いの家』(kindle singles)など。現在は季刊誌『東京荒野』で育児考察を、dancyu webでは食について連載中。執筆は映画誌への寄稿や書評まで多岐にわたる。

池守りぜね(ライター)

池守りぜね(ライター)

出版社やweb媒体の編集を経て、フリーライターに。趣味は家族とのプロレス観戦、音楽フェス参戦。プライベートでは女児の母。

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最終更新:2019/12/27 23:25
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