中学受験の過酷さは「ブラック企業」並み? 小6秋の「偏差値暴落」に焦った母とパンクした娘
その後、室長はエリカちゃんを別室に呼び出して、微笑みながら「学校には行きたい? 行きたいなら、行っていいんだよ」と声をかけてくれたそうだ。当時のことを、エリカちゃんが次のように振り返る。
「室長は、『もちろん、社会科見学にも行っていいし、学校のクリスマス会も楽しんでおいで』と言ってくれたんですよね。あと、『実力は十分身に付いているんだから、受験は大丈夫』『この室長先生が太鼓判を押しているだから(笑)!』とも」
そのときエリカちゃんは「叱られる」とばかり思っていたため、室長の言葉に「びっくりした」という。
「あの時、トイレを詰まらせるというとんでもないことをしたにもかかわらず、室長先生はそのことには一言も触れませんでした。それどころか、私を励ましてくれたんです……。それで、私に『どうしたいのか?』ということを丁寧に聞いてくれました」
エリカちゃんはT学園に行きたいこと、その学校の吹奏楽部に入りたいこと、小学校にも行って友達と会いたいこと、クリスマス会にも出たいこと、そしてお母さんを悲しませたくないことなどをポツリポツリと話したそうだ。
「『自分の思ってることを、言っていいのかな?』って、不思議な感覚だったことを覚えています。なんというか、生まれて初めて、誰かに『エリカは、本当はどうしたいの?』って聞いてもらえた気がしました」
それから室長は「エリカスペシャル・T学園への道」と称して、T学園用のオリジナルプリントを作って、エリカちゃんに渡してくれたそうだ。美奈子さんはそれを見て、完全に目が覚めたという。
「実は、エリカがそれほどT学園に強い思いを持っていたことを知らなかったんです。私は、S学園に入ってほしくて、躍起になっていて、エリカもきっとそうだろうって。でも、それは私の勝手な思い込みで、エリカの希望じゃなかった……」
そして、受験本番。エリカちゃんは、見事にT学園の合格切符を得た。時が流れるのは早いもので、あれから10年の歳月が流れ、先日、エリカちゃんから、筆者の元に連絡が入った。
「私、春から、塾に就職します! ええ、あの中学受験塾です。今度は私が、私のような子を救ってあげたくて!」
美奈子さんも、もちろん、あの時の室長もこの報告をとても喜んでいると聞いている。
(鳥居りんこ)