韓国映画『弁護人』、公開から6年後の今話題になる背景――「検察」という韓国社会の“怒り”の対象
近年、K-POPや映画・ドラマを通じて韓国カルチャーの認知度は高まっている。しかし作品の根底にある国民性・価値観の理解にまでは至っていないのではないだろうか。このコラムでは韓国映画を通じて韓国近現代史を振り返り、社会として抱える問題、日本へのまなざし、価値観の変化を学んでみたい。
文在寅(ムン・ジェイン)大統領が閣僚へ指名した8月からおよそ2カ月の間、韓国社会を真っ二つにし、賛否両論の中心に立っていた曺国(チョ・グク)法相が辞任した。韓国では、大統領が指名した閣僚候補者は、国会の聴聞会で資質や政策へのヴィジョンを検証される仕組みがあり、実はこれまでも多くの候補者たちが“プライベートな疑惑”に対する野党の追及に耐え切れず、聴聞会直後に自ら辞退してきた。
もちろん最終任命権は大統領にあるため、まれにではあるが、聴聞会での判定にかかわらず大統領が任命を強行することもあり、曺氏の場合がこれにあたる。曺氏は聴聞会後もさまざまな疑惑(ただしこれらはあくまでも疑惑で、いまだ立証されていない)にさらされたが、野党の猛攻やメディアの一方的な報道を、驚くほど淡々とした態度で受け流していた。そんな曺氏の姿に、国民の関心は次第に“プライベートな疑惑”から、彼が文大統領と共に提唱している“検察改革”へと移っていった。検察改革とは何を意味するのか、なぜこれほどまでの攻撃を受けながら、彼は粘り強く耐えてきたのだろうか。
そんな中、1本の映画がネット上で再び話題を呼んだ。日本では任期終了後に検察の追及を受けて自殺した人物として知られる、盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領をモデルにした『弁護人』(ヤン・ウソク監督、韓国では2013年公開)だ。6年前の映画がなぜ今さら?と思うかもしれない。それは彼こそが、曺氏や文大統領に先駆けて、検察改革を試みた史上初の大統領だったからだ。盧元大統領の改革は、検察側の組織的な反発を打ち破れず挫折したうえ、当時は国民からも、検察を政治から分離するという改革は理想的だが実現性が薄いと疑問視されてうやむやになってしまったのだが、16年たったこの時代に、検察改革を目指して奮闘する曺氏の姿に、忘れかけていた元大統領がオーバーラップしたのである。
それでは映画『弁護人』を取り上げて、盧元大統領の目指した思いが、いかにして文大統領や曺国氏に受け継がれてきたかを考えてみよう。