コラム
【連載】堀江宏樹に聞く! 日本の“アウト”皇室史!!

「殺害疑惑」「僧侶とセックス」天皇と皇太后をクビになったヤバすぎる親子【日本のアウト皇室史】

2019/11/02 17:00
堀江宏樹

『超訳百人一首 うた恋い。』(メディアファクトリー)公式サイトより

――いっそう闇を感じてしまうエピソードですね。でも、どうしてそんな悲しい結末になってしまったんですか。

堀江 母君・藤原高子から狂気めいた血脈を受け取っていたのかもしれませんねぇ。彼女は、名門武家の一つである「清和源氏」の祖・清和天皇(第56代)の元に、中宮(≒皇后)として嫁ぎます。高子は結婚前から、その美貌を人々に見せつけていたといい、公卿・国司の子女の中から、5人の未婚の少女が選出される「五節(ごせち)の舞姫」に抜てきされました。そして、宮中の儀式・新嘗祭(にいなめさい)で、舞い踊ったそうです。当時、「五節の舞姫」に選ばれることは、とても名誉なことだったといい、権力者の男性の目に止まれば、良縁にも恵まれますからね。その結果、高子は一族の思惑通り、清和天皇の心を射止め、結婚することになりました。ちなみに、そこにいた男性たちは、あまりの彼女の美しさに、熱を出してしまったという、ウソみたいなエピソードも残っています(笑)。

――それだけ美しかったら、男性もたくさん近づいてきそうですね。

堀江 高子は恋愛体質で、“肉食系”だったと言われていますが、こんな逸話が残っているんですよ。結婚後、数え年で16歳になった高子は、8歳年下の清和天皇をほったらかして、「絶世の色男」と言われている在原業平と愛の逃避行をしたんです。つまり、不倫の“駆け落ち”の旅。少年のお相手は退屈だったのでしょう。結局、藤原一族の手で、彼女は連れ戻され、何事もなかったかのように清和天皇の元に送り返されます。そして、成長した清和天皇との間に生まれたのが、後の陽成天皇こと貞明(さだあきら)親王でした。高子は、二条后(にじょうのきさい)と呼ばれ、人々の尊敬を集めるようになったものの、また奇行に走ります。後宮で権力を得た高子ですが、貞明親王を授かった時の祝いの席に、元カレ・在原業平を呼び、親しく接するという、大胆な行動を取るんです。誰もが、恋人同士だったことを知っているんですよ。どこか狂的に見えませんか?

 ちなみに『百人一首』に採用された、在原業平の歌は、その時に詠まれたもの。ここでは、割愛しますが、未練どころか、高子への現役の愛情を感じさせる“熱烈”な恋歌なんです。

――夫・清和天皇から見て、高子はさぞかし扱いにくい妻だったでしょうねぇ。

堀江 資料によると、清和天皇は31歳という若さで、お亡くなりになっています。自由すぎる妻に、ストレスが溜まったのでしょうか。ただ、高子は、陽成天皇のほかにも、重要な皇子たちを生み、清和天皇の血統を次の世代につなげたので、その点では苦労はなかったかもしれません。 
 
 話は少々、脱線しますが、清和天皇は妹の件でも苦労しています。妹・恬子(てんし)内親王は神に仕える“斎宮”として、三重・伊勢で静かに過ごしていました。が、そこに例の在原業平が高子との破局後、傷心旅行で伊勢に訪れ、恬子内親王とデキてしまったのです……。歌物語・『伊勢物語』に出てくるエピソードですが、どうやら実話だったとか。

――妻と妹が、同じ男を好きになるなんて、清和天皇がかわいそうになります。

堀江 しかも、在原業平の色男ぶりに心がざわついた恬子内親王が、美しい10月の朧月夜の深夜に「夜這い」をかけたといいます。歴史学者・角田文衛の緻密な論考もあるので、僕の妄想というわけではありませんよ(笑)。そして、ワンナイトラブの結果、恬子内親王は見事にご懐妊。その子は、学者の家柄である高階家に養子に出され、高階師久(たかしなのもろひさ)として一生を送りました。

――在原業平って、歴史や古文の時間に聞いたことがある名前でしたが、なかなか激しいエピソードを持っている方だったんですね。

堀江 なんせ日本史を代表する色男ですからねぇ。ちなみに高子は、50代の時にも恋愛事件を起こし、その罪によって「廃后」つまり、皇太后を“クビ”にされています。彼女は自分が建てさせた東光寺の座主(代表者)だった善祐(ぜんゆう)といったお坊さん“たち”と男女関係に陥ったそうな。

――複数形!? 高子、50代でも現役バリバリ……。寺を建ててくれたパトロンの皇太后から迫られたら、お坊さんたちも断れないでしょうしね……。お坊さんたちは、どうなってしまったのでしょうか? 

堀江 善祐は伊豆に流刑にされました。当時の感覚でいうと、処刑より一等軽いだけの“重罪”。それにしても高子は、欲望に忠実すぎる人生を送っていますよね。当時の感覚では40代が引退の年齢とされているので、50代はかなりの老女ということになります。「生涯現役」といった感じの、意味“パワフル”と言える、しかしだいぶアウトな一面を、息子・陽成天皇は受け継いだのかもしれませんね。

堀江宏樹さん(撮影:竹内摩耶)

堀江宏樹(ほりえ・ひろき)
1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。2019年7月1日、新刊『愛と欲望の世界史』が発売。好評既刊に『本当は怖い世界史 戦慄篇』『本当は怖い日本史』(いずれも三笠書房・王様文庫)など。

Twitter/公式ブログ「橙通信

最終更新:2019/11/02 17:00
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