『奴隷労働』著者・巣内尚子氏に聞く、ベトナム技能実習生の現実(前編)――奴隷生む闇の“産業”
――これまで日本政府は、実態としては労働者であるにもかかわらず、「技能」を「実習」する「実習生」だというタテマエを採ってきました。しかし、受け入れ企業は、技能実習生を労働者として扱っています。搾取はここから生まれているようです。
巣内 はい。技能実習生をめぐる問題では「悪い受け入れ企業」の問題が取り沙汰されるのですが、むしろ見るべきは、技能実習制度そのものが、“交渉力の弱い労働者”を作り出していることです。
技能実習制度をめぐる課題は、いくつかあります。第一に、前述したように、仲介組織が技能実習生と受け入れ企業の間に入ることで生じる手数料を企業が負担しなければいけないこと。
もう一つが、技能実習生の諸権利の制限です。技能実習生制度の下では、技能実習生は来日後、原則として受け入れ企業を変更できません。転職の自由がないのです。さらに技能実習生は家族を帯同することができず、単身で来日することになります。また住まいは受け入れ企業の用意する寮になります。こうした制度的な要因から、技能実習生は在留資格、住まい、仕事が一体化しており、がんじがらめの状態。特に受け入れ企業の変更が原則としてできないことから、受け入れ企業との間で非対称な権力関係のもとに置かれてしまいます。
受け入れ企業に問題がある場合、支援者の手を借りるなどして、受け入れ企業の変更を申し出て、変更が認められることもありますが、そのためには、まず外部に相談し、支援を仰がなければなりません。しかし、技能実習生は借金漬けの状態で来日していますから、借金返済をせねばなりませんし、家族への仕送りの責任もあります。そのような状態において、外部に相談することで受け入れ企業が怒り、帰国させられてしまうのではないかと技能実習生は恐れ、なかなか相談できないのです。
――ブラック企業の労働環境よりひどいかもしれませんね。
巣内 技能実習生をめぐる問題をブラック企業問題に矮小化すべきではありません。個別の企業の課題はもちろん対処しなければいけないのですが、なぜ何度も技能実習生への搾取が繰り返されるのかを考える必要があります。外国人労働者支援の草分けとして知られる「移住者と連帯する全国ネットワーク」代表理事の鳥井一平さんは、技能実習制度は「人のよい中小企業経営者を変えてしまう制度」だと指摘しています。
技能実習制度という制度そのものが、交渉力の弱い労働者を生み出しており、ゆえに受け入れ企業における課題が繰り返されているのではないでしょうか。もし技能実習生が自由に転職できるようになれば、企業は現状のやり方では技能実習生を引き留められなくなり、処遇改善を迫られるのではないかと思います。
さらに技能実習生というと、長時間労働や賃金未払いなど労働問題が話題になりますが、生活面の貧弱さも問題です。せっかく借金までして日本に来ても、自由に部屋も借りられず、受け入れ先が用意した不衛生な寮で集団生活をさせられる例もあります。しかし、声を上げて処遇改善を求めることは、なかなかできないのです。
(後編へつづく)