「正直、またか」「帰宅しても誰もいない」遠距離介護に励む妻、夫の“意地悪”な本音
“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)
そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。
“遠距離”というと読者の皆さんは何を思い浮かべるだろうか。「遠距離恋愛」? いやいや「遠距離介護」という方も多いと思う。遠距離介護は、遠距離恋愛よりむずかしい、と筆者は思う。今回は遠距離介護する娘――ではなく、その夫の本音を探った。
遠距離で母親を介護する妻
「幸い僕の母はまだまだ元気です。父と二人で暮らしていたころよりも活動的なんじゃないですか」と苦笑するのは小池武さん(仮名・53)だ。
「父は10年以上前に亡くなり、母は僕の家の近くで一人暮らしをしていますが、習い事をしたり、友人と旅行したりと、毎日忙しくしています。配偶者を亡くしても女の人は強いですね。男はそうはいかない。もし自分が奥さんに先立たれたら悲しみのあまりすぐに死んでしまうと思います」
小池さんがそういうのは、妻・淳子さん(仮名・50)の不在がこたえているからだ。
淳子さんの実家へは、飛行機で2時間近くかかる。淳子さんの父親ががんでここ数年闘病中だったのだが、ここ数カ月で急激に悪化し、いつ急変してもおかしくないと言われた。「お母さんも疲れているし、お父さんのそばにいてあげたい」と淳子さんが言うので、「それは娘として当然だから、こっちのことは気にしないでいいよ」と快く送り出したのだという。
小池さんは、夫婦二人暮らし。大学院生の一人息子は都内で一人暮らしをしていて、めったに帰ってこない。淳子さんが父親の看病で実家に帰っている間は、仕事を終えた後に外で飲んで帰ることが増えた。「単身赴任した経験もなかったので、帰宅しても誰もいないということが結構こたえました」と笑う。
淳子さんの父親は「もう危ない」と言われながら何度か持ち直したが、半年前ついに力尽きた。淳子さんは力を落としている母親のそばにいてあげたいといって、しばらく実家に滞在した。
2カ月ほどすると、母親も落ち着いてきたといって、淳子さんがようやく戻ってきた。
「妻も疲れていましたが、やるだけのことはやれたと満足していました。一人暮らしになった義母のことは心配ではありましたが、僕の母を見ていても、残された女親の方はしばらくすれば元気になると思っていたので、そう心配しなくても大丈夫だろうと楽観していたんですが……」