中国人女性との“偽装結婚”を手助け――「誰からも好かれる人」が「被告」になった理由
……と、ここまでが検察による冒頭陳述(事件のあらすじ)で、このあと弁護側の証人が登場しました。弁護側の基本的な法廷戦術には、裁判官の“情”に訴え、少しでも心証を良くしようと「情状証人」を連れてくることがありますが、今回の裁判では、まさにこの情状証人が登場。とにかく被告Sを褒めまくるという、ちょっと不思議な光景を目の当たりにしました。
情状証人には、被告の本質は善良であり、深く反省していて、再犯の可能性は絶対になく、出所後も支えてくれる身元引受人がおり……などなど、「被告は本来“いい人”で、罪を犯すに至らしめた不幸な環境があった」という内容を語らせるケースが多いです。今回の事件で、被告Sに重い判決が下される可能性は極めて低いと思われますが、それでも証人が2人も現れたことに鑑みると、彼にはよっぽど人徳があるのでしょう。
1人目の証人は、被告Sと30年の付き合いがある共同経営者。「頼まれると親身になって相談に乗る人」「誰からも好かれる」という素敵な人物像を語ったかと思えば、つい最近、被告Sと起業したばかりなので「勾留留時には(運営に)困った」との本音も。
続く2人目の証人は、被告Sの妻。2人は学生時代からの付き合いだそうで、「あまり深く考えずに引き受けてしまったのでは」「とても反省している」などと、「自分がサポートして一緒に罪を償っていく」決意を語りました。法廷では、事実と違う証言をしたら「偽証罪」に問われる可能性があります。その危険を冒してまで出て来てくれる妻がいることに、少し安堵。途中から、石井ふく子プロデュースのドラマを見ているような気分になってしまいました。
被告Sが罪を犯したことは事実だとしても、情状証人の話を聞いていると、つい「本当はいい人なんだな」と心が動きます。自分の部下として働いてくれた仲間であり、身寄りのない中年の友人でもあるHを結婚相手として紹介したのも、彼の老後を思いやった上のことなのだろうと、納得できてしまうんですよね。「最初は偽装だけど、いずれは本当の夫婦になれるかもと思った」という被告Sの一言にも、ちょっとウルっときてしまいました。
面倒見が良すぎて一線を越えてまったこの事案は、「“悪意”がなくても犯罪者になってしまうことがある」という教訓を、私たちに提示してくれた一件だったと言えるでしょう。
(オカヂマカオリ)