コラム
【連載】傍聴席から眺める“人生ドラマ”

中国人女性との“偽装結婚”を手助け――「誰からも好かれる人」が「被告」になった理由

2019/09/21 18:00
オカヂマカオリ
「東京高等地方簡易裁判所合同庁舎」Wikipediaより

 殺人、暴行、わいせつ、薬物、窃盗……毎日毎日、事件がセンセーショナルに報じられる中、大きな話題になるわけでもなく、犯した罪をひっそりと裁かれていく人たちがいます。彼らは一体、どうして罪を犯してしまったのか。これからの生活で、どうやって罪を償っていくのか。傍聴席に座り、静かに(時に荒々しく)語られる被告の言葉に耳を傾けると、“人生”という名のドラマが見えてきます――。

【#003号法廷】

罪状:電磁的公正証書原本不実記録 同供用幇助
被告人:会社役員S(60歳・男性)

 裁判傍聴をする際にまず確認するものと言えば、その日に行われる裁判がズラリと書かれた「開廷表」。東京高等・地方・簡易裁判所合同庁舎では、ロビーでこれを確認できるのですが、罪状を見ただけでは何がなんだかわからなかったので、こちらの事件を傍聴してみることに。

 双方に結婚の意思が無いのに、虚偽の婚姻届を出して(不実記録)、新しい戸籍(公正証書)を作ったので、この罪名になった模様。ちなみに、紙の台帳に記録されていた公文書の原本が、現在はデータベース(デジタル)化されているため、“電磁的”という言葉がついているようです。簡単に言えば、「偽装結婚の手助けをした」ということなのですが、何ともややこしい罪名ですよね。今回は正直、軽い感じの裁判を予想していたのですが、なかなか濃いドラマが展開されました。罪名はデジタルですが、内容はコテコテの“アナログ人情劇”だったのです。

<事件の概要>

 平成27年、被告Sは行きつけの中華料理店・店主夫婦の中国人妻Wから、「甥の元妻Cが日本に来たいと言っているけど、どうかな?」「(偽装結婚で相手に支払う報酬の)“相場”はいくら?」と、軽い調子でCの“相手探し”を持ちかけられた。被告Sはあまり深く考えずに「中国人女性が日本に来たいだけ」だと思い、前に勤めていた会社で懇意にしていた、自身の元部下Hを紹介。この時被告Sは、Hが天涯孤独であることを案じていて、「いずれは本当の夫婦になれるかも」と気遣う気持ちもあったとか。そして、報酬としてHに月々6万円ずつ支払うということで、話がまとまった。

 平成28年7月、店主夫妻の招待で、被告SとHは中国旅行に赴く。訪問したのは店主妻Wの故郷で、そこで偽装結婚を望む甥の元妻・中国人女性CとHが引き合わされ、親族を呼んで“結婚祝賀パーティー”まで催された。被告SとHの渡航費を含め、一切の費用は店主夫婦持ちだったそうで(被告Sは支払いの意志を見せたものの、店主夫婦に拒否された)、結局、おとなしく接待にあずかることに。被告Sは偽装結婚に関する仲介手数料も受け取らなかったそうだが、次第に「このままだと、犯罪に関わってしまうのでは?」と感じるように。

 「配偶者ビザ」を入国管理局に申請するため、「(偽装結婚した2人は)長野県の国民休暇村で出会った」という、“嘘の馴れ初め”まで考えたという被告S。元部下Hと中国人女性Cは、帰国後に東京S区に婚姻届を提出し、書類上“夫婦”となった。しかし、2人はこの事件が発覚するまで、同居もせず、肉体関係もなかったという。のちに、被告Sは店主妻Wに「偽装結婚あっせん」の“前科”があったことを知るのだった。

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