シヤチハタ・痴漢撃退スタンプが完売も――2016年の“痴漢抑止バッジ”の効果とその後
販痴漢抑止活動を立ち上げた15年当初、「やってもいないことで罪に問われる男の方が大変」という否定的な意見もあったという。しかし、バッジを製作する資金調達のために行ったクラウドファンディングでは、協力者の4割が男性、バッジのデザインコンテストの応募者、バッジ購入者も4割が男性。男性支援者から、「被害者も加害者も出したくない」「性犯罪に苦しむ人がいなくなることを願っております」といったメッセージもあったという。
また、一部のフェミニストから「被害に遭う女の子は悪くないのに、バッジで被害を防止させようとするのは、セカンドレイプにつながる」という指摘もあった。松永さんは一定の理解を示しつつも反論する。
「これまで痴漢やレイプ被害に遭った女性は、警察をはじめ周りの大人や友人から、『暗い道を歩いていたから』『あなたにも隙があった』などと言われてきた。だから、それを思わせるような言動はいけないということなのでしょう。ですが、これから初めて通勤ラッシュの電車に乗って学校に行く女子高生に、電車の中に痴漢がいることや、身の守り方を教えずに送り出すのは危険です」
9割以上が効果に肯定的な評価
批判を受けたり、販路拡大に苦戦したりしながらも、痴漢抑止バッジは個人や企業、警察の理解や共感により、徐々に広がりつつある。だが、本当に痴漢を抑止する効果はあるのだろうか?
松永さんは16年に埼玉県の浦和麗明高校に100個寄贈した際、バッジについての感想をはがきで募り、女子生徒からの回答を集計した。回答した70名の生徒のうち「効果があった」(バッジをつけるまでは痴漢被害に遭っていたが、つけたら被害がなくなった等)と答えた生徒は61.4%、「効果を感じた」(痴漢被害に遭ったことはあるが、最近は被害に遭っておらず、バッジをつけてからもない。バッジをつけると、より安心。電車に乗ると、周りにほかの女性客が立ってくれるといった配慮があった等)と答えた生徒は32.9%と、90%以上の生徒が肯定的な評価をしている。「変化なし」(これまで痴漢に遭ったことがない)は4.3%、「効果がないと思う」(友達がそう言っていた)は1.4%だったそうだ。
松永さんは、「『バッジをつけていたのに痴漢に遭った』というコメントは、今までのところ届いていません。痴漢抑止バッジには効果があります」と断言する。
コンテストで痴漢問題を共有
バッジのデザインは、毎年コンテストを実施し、選ばれた5種類を商品化している。2回目の16年度からは、将来デザイナーを目指す学生を対象とした。これは、「コンテストに参加することで、同世代が痴漢被害に遭っていると知り、自分のデザインで解決する方法を考えてほしい」という狙いがある。自分は男だから関係ない、私は痴漢に遭ったことがないから関係ない――などと他人事として捉えるのではなく、社会の課題として、皆で解決法を考える機会が「痴漢抑止バッジデザインコンテスト」だ。
「私は、『このバッジをつけて、自分を守りなさい』と被害者を突き放すつもりはありません。活動を通じて、10年後の社会を変えていきたいのです。世の中の表現には、すべてデザインの要素があります。ジェンダー意識の高いデザイナーが増えれば、社会に発信される情報の質も変わるでしょう」
17年度のコンテストには、全国43都道府県とニューヨーク、ソウルから1338作品の応募があった。デザインと共に、活動へのメッセージも寄せられている。「今後は学校との連携も強化して、参加者を増やしていきたい」と松永さんは話す。今年も、8月にコンテストを実施するそうだ。