父の“終の棲家”を探して――自宅で同居をケアマネジャーに反対されたワケ【老いゆく親と向き合う】
「父が住んでいた家が事情があって取り壊されることになって、住む場所を探さないといけなくなりました。亡くなった義母の家が空いていたので、そこに住んでもらって、私が夫と父をみるという生活もできるんじゃないかと思ったんですが、ケアマネジャーさんに絶対無理だからと反対されたんです」
ケアマネジャーは、また藤本さん一人に負担がかかることを懸念したのだろう。とすると、父親の住む場所を探さないといけない。
当時、父親は93歳。認知症はなく、足腰もしっかりしているとはいえ、年相応の衰えはある。しかし、要支援1なので特養には入れない。国民年金しかないので、有料老人ホームに入るのも難しい。そこで選択したのが、「養護老人ホーム」だった。介護の必要性の有無にかかわらず、金銭面や環境面で自宅で生活するのが困難な高齢者を対象とした施設だ。
「うちからは車で20分ほどのところにあって、父と一緒に見学に行って決めました。個室で食事もついています。自宅のような扱いなので、そこからデイサービスに通っています。隣には特養もついているので、今後介護が必要になっても大丈夫でしょう。なんだか、また義母のときと同じように、導かれるようにすんなりと決まりました」
慣れない環境なので、買い物に行けないことがつらいと父親は言うが、95歳になる今も毎日日記を書いて、ラジオ体操をしているというから、順調だといえるだろう。
「父はほとんど施設にお任せです。夫の闘病は続いていますが、病気のことばかり考えても仕方ないと思っています。二人でおいしいものを食べて、ドライブをして楽しまないとね」
要領がいいからきっと大丈夫、と笑う藤本さん。その言葉に救われるのは、公男さんばかりではない。誰よりも、藤本さんの力の源になっているのだ。
坂口鈴香(さかぐち・すずか)
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。