カルチャー
インタビュー【後編】

ゆるキャラビジネスの“光と闇”――「ふるさと納税で6億円稼ぐ」「グレーな仕事で在宅起訴」

2019/08/30 16:00
番田アミ

――なんだか、大変いい話が聞けました。

犬山 行政が運営するキャラクターは割とほっこりする話も多いですが、今は個人が作るゆるキャラも増えていて、 そっちは不穏な話もあったりします。14年に東京・高円寺の商店街でご当地キャラクターの公募があって、本来はイラストで応募するところを、いきなり既存の着ぐるみ姿で登場して「俺を高円寺のキャラにしてくれ」と名乗り出た人たちが何人もいました。そういった各地の“非公式キャラクター”が徒党を組んで、「ぐれキャラ」と名乗っていたことがありましたね。その頃から、個人で勝手に作ったキャラクターが爆発的に増えた印象です。個人的に活動をしている人の中には、「お金のため」「モテるため」など、本来の地域活性化とは違った、よこしまな目的を持って活動を始める人たちも紛れているのです。

――ゆるい見た目に隠されている部分があるかもしれない、という……。

犬山 そもそも着ぐるみ自体、“中の人”が見えない危うさがありますよね。数年前、都内某所をボランティアで清掃し、道ゆく人にお菓子や金銭を渡す「M」というキャラクターが出没したことがありました。私が彼に話を聞くと、「もう一生分稼いだから、余生は人助けをして生きたい」と言っていて、その立派な考えに憧れを抱きました。でも実は、中の人が“グレーな仕事”をしていて、脱税容疑で在宅起訴されてしまったんです。このように、最近は過去のトラブルや炎上を隠して参入してくるキャラクターもいるんですよ。

――顔の見えない危うさや怖さは、特に個人キャラクターだと意識しないといけませんね。

犬山 個人キャラクターだけでなく、企業が関わるキャラクターにも、キナ臭いのは結構います。8月3日にロンドンブーツ1号2号の田村淳さんが設立した、キャラクタービジネスの会社「株式会社がちキャラ」は、これからいろんな意味で注目した方がいいですよ。

――と、言いますと……。

犬山 今年5月に『第1回がちキャラグランプリ』というイベントが行われましたが、開催前の大会概要の資料を見ると、「第1回には間に合わなかったけど、第2回にはふなっしーをはじめ、人気キャラクターが続々参加!」といったことが書いてあったんですよ。ふなっしー本人に確認したところ、「参加するわけがない」と一笑に付されましたが。ほかにも、大手出版社が主催する子ども向けイベントに「参加決定(仮)」と書かれていたり……決定なのか仮なのか、どっちなんだよと(笑)。真偽を疑いたくなる記述がいくつもありましたが、田村さんや大企業の名前を信頼して、イベントに金を出すスポンサーが実際にいるんですよね。ちなみに、『がちキャラグランプリ』の運営には、「ちぃたん☆」の過激動画を制作していた会社も絡んでいるようなので、今後の展開が気になります。

 過去にも、キャラクター業界には“お金儲け”のために参入してきた企業がいくつかありました。しかし、ビジネス的に失敗して撤退する、といったことを繰り返しているんです。「儲かるだろう」と思って自分たちのノウハウを持ってやって来るのですが、なかなかうまくいかずで。そう考えると、『ゆるキャラグランプリ』はよくぞここまでやって来たなと思います。

――そんな『ゆるキャラグランプリ』ですが、2020年をもって終了することが決定しています。今後のゆるキャラ業界は、どう変わっていくのでしょうか。

犬山 ゆるキャラのブームは終わったと言われていますが、文化として成熟したからこそ、みんなが気づかないくらい社会に浸透したんだと思います。これまでは『ゆるキャラグランプリ』で1位になれば、ある程度の評価はもらえましたが、今後の観点になるのは、本当の意味での「成果」でしょうね。今はネットやSNSなどの発達で、ウソやハッタリはすぐに見抜かれてしまいますから。表面上の順位や票数だけではなく、本当の意味で地元の役に立つ。それができないゆるキャラは、どんどん淘汰されていくと思います。
(番田アミ)

■犬山秋彦(いぬやま・あきひこ)
1976年東京都生まれ。ライター、デザイナー、キャラクターコンサルタント。自衛隊勤務、テレビゲームのシナリオアシスタント、ディズニーキャストなどを経て現在に至る。戸越銀次郎・大崎一番太郎など「ゆるキャラ」のデザイン、プロデュースを行う傍ら、『週刊戦国武将データファイル』(デアゴスティーニ・ジャパン)、『信長とお江』(徳間書店)など歴史関連の記事・マンガ原作も執筆。著書『ワーキングプア死亡宣告』(共著)、絵本『しんかいくんとうみのおともだち』(イラストを担当)。

最終更新:2019/08/30 16:00
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