認知症・義母の特養入所に「情けない」ーーダブル介護を背負った嫁【老いてゆく親と向き合う】
“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)
そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。藤本千恵子さん(仮名・58)のダブル介護生活の話の3回目をお届けする。脳出血で倒れた夫の公男さん(65)が退院してから、藤本さんの負担はさらに重くなった。
自宅でのリハビリがはじまる
公男さんを自宅で介護するようになると、日中危なくて目が離せない状態になった。そこで、ヨシエさんを初めてショートステイにお願いする決断をした。
「はじめは1泊から。いろんなショートステイをケアマネジャーさんが探してくれて、義母も慣れてくると、4~5日は泊まれるようになりました。自分の息子が車いす生活になったことは、なんとなく理解しているようで、『千恵ちゃん、悪いね』と言ってくれていました。『公男さんのリハビリが大変だから』と言うと、『わかった』と気持ちよく行ってくれました」
公男さんがデイケア(リハビリの通所介護)に行く週3回、午前10時~午後4時までは、藤本さんの休息時間となった。しばらくすると訪問リハビリを利用し、理学療法士(PT)が外に出て歩行訓練をしてくれるようになる。
「外の世界は傾斜があったり段差があったりして、室内でのリハビリとは環境がまったく違います。今日はここまで行けた、次は信号を渡れるようにしよう、と少しずつ目標が高くなっていきました」
思いのほか早い入所に「まだ頑張れるのに、どうしよう」
そんな生活が1年ほど続いた。ヨシエさんの介護はショートステイを利用することでやり繰りしていたが、公男さんの介護も長期戦になることが予想され、藤本さん夫婦はヨシエさんの施設探しをはじめた。
「特別養護老人ホーム(特養)を何カ所か見学して、『夫の介護もあるので』と言って申し込みをしました。『400人待ち』と言われて、しばらくは順番が回ってこないと覚悟していたところ、申し込みから3カ月くらいで『入れます』と。喜ぶというより、『え? こんなに早く、どうしよう?』と戸惑いました。『まだ頑張れるのに』と思ってしまうんです。でもこうした反応は、どうも特養に申し込んだ家族に共通のものらしくて、いつも利用しているショートステイのスタッフから『今断ると、もうチャンスはなくなりますよ』と言われて、入所をお願いすることにしました」
2人を介護しているということが考慮されて、優先順位が上がったのだろう。ヨシエさんが特養入所を受け入れてくれるのかが次の問題だった。
「夫から、義母に伝えました。『リハビリが大変だから、入ってくれないか』と。義母は納得してくれました。私からも、『ごめんね。公男さんもがんばるから、お義母さんもがんばって』と……」
そのときの藤本さんの気持ちを聞いてみると、「なんだか情けなかった」と微妙な感情を明かしてくれた。
「あるとき、90歳で一人暮らしをしていた父のところで、『なんで私ばかり』と泣いてしまいました。父は、『千恵子はごちゃごちゃ考えすぎるからだ』と言っていました。慰めるつもりだったのかな(笑)」
公男さんからは、謝られた。「申し訳ない。自分と結婚しなかったら、こんなことにはならなかったのに」と――。
(11回に続く)
坂口鈴香(さかぐち・すずか)
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。