コラム
“中学受験”に見る親と子の姿

算数テストでカンニング発覚! 中学受験生の息子に怒り狂う母が、それでも「目をつむった」ワケ

2019/08/11 16:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

 周君は、陽子さんに、室長から聞いたという円周率の話を笑顔で語り、実際に色んな円を自作して、実演してみせたそうだ。陽子さんはその姿を見て、猛烈に反省したという。

「私、間違っていました。周がカンニングしたのは、間違いなく私のプレッシャーです。『6年の最後のクラス替えで元のクラスに戻らなかったら、もう意味はないから、受験をやめなさい』なんてことを何度も言っていたんです。周がポーカーフェイスだったので、ちょっと気合を入れようとしただけだったんですが……」

 当時のことを思い出し、こみあげてくるものがあるのか、陽子さんはハンカチで顔を覆った。

「中学受験を周に経験させてあげようとしたのは、決して、いい点を取るとか、偏差値を上げるという目的ではなかったことを思い出しました。『勉強って楽しいね、知るってうれしいね』ってことを重視する環境に周を置いてあげたかっただけなのに、塾のクラス分けやテストの結果を前に、いつの間にか、有名進学校に入ることだけが目的になってしまっていたんです」

 その後、陽子さんはカンニングのことに関しては一切触れず、周君に「なぜ、中学受験をすることに決めたのか」という話をしながら、周君が今までの3年間で培ってきた知識の広がりを、具体的に褒めたそうだ。

いわく、日本の歴史は母よりも詳しくて驚いていること
いわく、四文字熟語や慣用句の知識が豊富なこと
いわく、星の名前がいくつも言えること
いわく、計算問題を解くスピードが格段に増していること

 それらを一つずつ口に出して周君に伝えていると、「自分でも驚くくらい、周の知識が広がっていることにあらためて気付かされた」と陽子さんはいう。周君は「当たり前だろう? 塾に行ってるんだから!」と素気なく答えたらしいが、「まんざらでもない」という態度を陽子さんは感じ取ったそうだ。

「中学受験生はまだ子どもですから、余計に親の言い方が大事なんですね。私はクラス落ちの苛立ちをこともあろうに周にぶつけただけでした。周の方が数千倍悔しかっただろうに、私はやる気を失わせる言動しかしていませんでした。室長に救われたのは、実は私の方だったかもしれません……」

 周君は秋のクラス替えで元のクラスに返り咲き、見事に第1志望校に入学した。今現在は科学部に在籍しており、昨年の文化祭では「葉脈しおり作り」班の班長として活躍していた。 周君いわく「科学って不思議で、すごく美しい」のだそうだ。
(鳥居りんこ)

最終更新:2019/08/11 16:00
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