『表現の不自由展・その後』中止問題、脅迫した人物はどんな罪に問われる? 弁護士に聞く
大村知事によると、脅迫行為に関しては、すでに愛知県警に相談しているとのこと。ネット上では「威力業務妨害罪に当たるのではないか」と指摘されているが、山岸氏はこれについて、「暴行や脅迫などの有形的な方法をもって人の業務を妨害することにより成立するのが『威力業務妨害罪(刑法234条)』。3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられることになります」と説明する。
「ガソリンという危険物を持って“お邪魔する”という脅迫文は、先月起こった京都アニメーション第1スタジオの放火殺人事件も相まって、人々に大きな恐怖を与えるものです。『平穏・安全に展示会を開催する』という主催者側の業務が妨害されたわけですから、威力業務妨害罪が成立することとなります。また、損害賠償額についてはさまざまな考え方がありますが、『予定通り展示会を開催していれば得られるはずであった利益』が一つの指標になるでしょう」
また、こうしたテロ予告とも取れるような脅迫には「今こそ共謀罪を適用するときでは?」といった声もある。共謀罪成立をめぐっては、「市民の人権や自由を侵害する恐れが強い」などと議論を巻き起こしたが、山岸氏いわく「2017年の通常国会では最終的に(1)組織的犯罪集団が、(2)重大な犯罪の計画をして、(3)このような犯罪の実行を準備する行為を罰する、いわゆる『テロ等準備罪』として成立したので、「例えばネット上で、複数の人物が共謀して誹謗中傷や脅迫を行っただけでは、『組織的犯罪集団』に当てはまりませんので、共謀罪に問われることはありません」という。
なお、大村県知事は、トリエンナーレ事務局の職員の名前を聞き出し、ネットで誹謗中傷をする人もいたことを明かしているが、「こちらに関しては『侮辱罪(刑法231条)』や『名誉毀損罪(刑法230条)』が成立することがある」そうだ。
昭和天皇への「侮辱罪」と憤る人も
一方、中止になっても、一部からは、昭和天皇とみられる肖像を「燃やす」という作品に関する批判が鳴りやまない状況もある。先述の通り、作品の背景には、富山県立近代美術館問題が関係しているのだが、それでも「昭和天皇への侮辱である」「侮辱罪で告訴を」と指摘する人は少なくない。
「昭和天皇とみられる肖像を燃やすというのは、そのイデオロギーや主義主張を考えても、やはり『疑問視せざるを得ない行動』とする考えがあるのはわかりますし、『侮辱』に該当することは十分にあり得ると思います。ただし、昭和天皇はすでに崩御されておりますので、そもそも原則として『生きている人の名誉感情』を保護する名誉毀損罪や侮辱罪の対象とはなりません。告訴できる/できないの議論は間違いです」
『あいちトリエンナーレ』の芸術監督・津田大介氏は、脅迫文公開を求める声に「もちろん公開する選択肢もありましたしあのFAX以外にも脅迫やテロ予告と取れるものはありましたが、それを丸々公開すると犯人や見た人を刺激して更に危険が高まるためやめた方がいいと警察に止められているんです」とTwitter上で説明している。その警察が、このまま特に動かなければ、中止に至った理由に不信感を抱く者が続出することは火を見るよりも明らかなだけに、この問題について、今後は一層注視していきたい。