カルチャー
『ブスの自信の持ち方』著者インタビュー(前編)

「ブスVS美人」は“男”がつくった構図――山崎ナオコーラ氏が語る、美醜問題の元凶とは?

2019/08/12 17:00
安楽由紀子

――本書では、女性アイドルグループの総選挙にも異議を投げかけています。男性アイドルのファンは、「誰が一番か」という順位付けよりも、「誰と誰が仲良しか」「この子とこの子の仲良し度合いを見たい」といった組み合わせを楽しむものだけれども、一方で女性アイドルのファンはアイドル同士を競い合わせて人気順位を作り、「アイドルの人間力や容姿を評価する立場」から見下ろしたいのではないか、と。

山崎 女性のアイドルだって実際は順位を競うより、みんなと仲良く仕事したいと思っている子の方が多いのではないでしょうか。なのに、運営側やファンは順位付けをして盛り上がる。これも、まあ、キャバクラですよね。女性のアイドルにキャットファイトをさせることで、王様的な立場になれるファンがいるわけです。キャバ嬢だったら成人して自分の意思で活動しているし状況も認識できているわけですけれども、アイドルには10代も多く、ましてや中学生もいます。子どもに対して性的な魅力で順位付けをするというのは人道的ではありません。大問題です。もしも、30~40代の女性が10代の男性アイドルに対して、順位付けをするシーンがあったら、「子どもを性的な目で見て順番を付けるなんて気持ち悪い」と感じる人が結構いると思うのですが、「女性に限っては、たとえ10代でも大人扱いしていい」という間違った考えを持っている人が多いんでしょうね。「10代の少女を性的な目線で見るのはおかしい」「このシステムは間違っている」といったことに、10代の女の子が気付くことはなかなか難しいでしょうから、大人が考えていかなければいけないと思います。

――「ブス」と言われて傷ついた人が、別の誰かを「ブス」と攻撃することもありますよね。

山崎 私自身は、ブスについて考えはじめたのが作家としてデビューした26歳頃からなので、そんなに幼稚なシーンを見ることはありませんでしたが、「ブス」と言われたことで傷つき、ほかの人を攻撃したくなる心理は想像できる気がします。容姿の序列を、「これが社会なんだ」「動かせない絶対的なシステムなんだ」と思い込み、「この中でどう生きていこうか」と考えてしまうと、他人を攻撃するしかなくなるんじゃないでしょうか。でも、既存のシステムにハマるのではなくて、「このシステムを作った人がおかしい」という目線を持てたら変わっていくんじゃないですかね。私に言わせれば変えられるんですよ、社会もシステムも。

――ティーン向けの雑誌では相変わらず「恋愛するためにはキレイにならなければならない。痩せなければならない」といった圧力をかける企画が多く、攻撃の対象が他人ではなく、自分に向かい過酷なダイエットをする少女もいるようです。

山崎 大人向けの雑誌は、容姿に関係なく“仕事”で輝いている人が出てきたり、社会的な話題も取り上げられたりするようになって、ちょっとずつ変わってきていると思います。ティーン向けの雑誌ではまだそのような企画が取り上げられるということは、作り手が10代を甘く見ているのかもしれません。私たちが、本当に面白い本、真に新しい雑誌を頑張って作っていかなくてはいけないのだと思います。責任を感じます。

後編につづく

山崎ナオコーラ(やまざき・なおこーら)
1978年生まれ。作家。國學院大學文学部日本文学科卒業。2004年『人のセックスを笑うな』が文藝賞を受賞し、作家デビュー。著書に、小説『趣味で腹いっぱい』など。エッセイに『指先からソーダ』『母ではなくて、親になる』(いずれも河出書房新社)、『かわいい夫』(夏葉社)などがある。
2019年7月10日、新刊『ブスの自信の持ち方』(誠文堂新光社)が発売。

最終更新:2019/08/15 15:34
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