「義母はかわいそうだった」夫と義母のダブル介護を背負った嫁の決断【老いてゆく親と向き合う】
ところで、公男さんのリハビリ中、ヨシエさんはどうしていたのだろうか。
「どうしても夫中心の生活になります。昼間は病院に行くか、ときには友人とランチもして、愚痴をこぼしたい。義母のところには朝と夜は行って、昼間はこれまでのようにデイサービスを利用して、ヘルパーさんに来てもらう回数も増やしました。ケアマネジャーさんからショートステイを提案されましたが、ショートステイをすると認知症が進行しそうだと思ったので、『まだいいです』と断りました。なぜ断ったんでしょうね? 今思えば、私もまだ若かったからできたのかもしれませんね」
藤本さんには、「何が何でも自分が介護する」という気負いがあったわけではない。友人とのランチの時間も取るなど、自分のストレス発散もうまくできているのだ。それでも、もっとラクな方法を探そうとは思わなかったようだ。
「車で10分ほどのところに住んでいた、夫の弟も助けてくれて、週1回くらいは義母のご飯をつくりに来てくれていました。だからもっと、『こんなことをしてほしい』と私が言えばやってくれただろうと思います。でも、言えなかったですね……。なぜだかは、自分でもわかりません。でもケアマネジャーさんもいい人で、私一人が抱え込まなくて済むように考えてくれていましたし。私、なんでも要領よくできたと自分でも思うんです。でも、義母はかわいそうだったな、とも思います」
今も、気持ちは揺れている。
(10回に続く)
坂口鈴香(さかぐち・すずか)
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。
■【老いゆく親と向き合う】シリーズ
・父は被害者なのに――老人ホーム、認知症の入居者とのトラブル
・父の遺産は1円ももらっていないのに――仲睦まじい姉妹の本音
・明るく聡明な母で尊敬していたが――「せん妄」で知った母の本心
・認知症の母は壊れてなんかいない。本質があらわになっただけ