元極妻が考えるヒットマンと引きこもり――「いろんな人」が排除される社会が生んだ悲劇
さて渋々と襲撃を決めたものの、実行犯グループは、若頭の追跡に四苦八苦します。事件当時の若頭は持病があって都内の病院に入院したりと、移動が多かったんですね。それでも、「その日」が来てしまいました。
97年8月28日午後。神戸市内のシティホテルのほぼ満席の喫茶室に、サングラスに帽子、青色の作業服の4人の男が突然現れ、2人の山口組幹部とコーヒーを飲んでいた若頭を至近距離から銃撃しました。
「さすが、山口組の若頭や。並の根性とちがう」
中保さんは『ヒットマン~』で、こう書かれています。45口径の銃弾を10発くらい撃ち込まれながらも、若頭はなおもつかみかかろうとしてきたのだそうです。即死ではなく、搬送先の病院で亡くなっていますしね。
実行犯グループはいったん逃亡しますが、中保さんは逮捕されました。その後、1人は遺体で見つかり、あとの2人は懲役刑が確定しました。また、現場の指揮役は16年の逃亡の末に13年に逮捕され、無期懲役の刑が確定したことも話題になりました。
六代目山口組・司忍組長は、産経新聞の記者にこう明かしました。
「そもそもやくざをしていて得なことはない。懲役とは隣り合わせだし、ときには生命の危険もある。それでも人が集まってくる。昔から言われることだが、この世界で救われる者がいるからだと思う」
「社会から落ちこぼれた若者たちが無軌道になって、かたぎに迷惑をかけないように目を光らせることもわれわれの務めだと思っている」
落ちこぼれがヤクザの世界に入ることで救われる……というのは、今となっては説得力がないのですが、最近は就職氷河期世代の男性の事件も目立ちますよね。川崎で児童を含む20人を殺傷した男性、エリートのお父さんに殺された息子さん、ネットで相手を「低能」と罵倒していた「低能先生」による有名ブロガーの殺害。そして、7月18日には京都アニメーションで放火殺人事件がありましたが、これも犯人は41歳男性だそうです。
これらを「ヤクザが目を光らせない結果」とは言いませんが、「ヤクザという厄介者」だけではなく、「いろんな人」が排除される社会で、悲劇が繰り返されているのかなと思います。