元極妻が考えるヒットマンと引きこもり――「いろんな人」が排除される社会が生んだ悲劇
今は亡き某指定組織の三次団体幹部の妻だった、待田芳子姐さんが語る極妻の暮らし、ヤクザの実態――。
■突然のヒットマン指名
先月末に、『満期出獄 ヒットマン・中保喜代春』(かや書房)というまたまたすごい本が出版されました。中保さんは、あの「五代目山口組・宅見勝若頭射殺事件」の実行犯のお一人です。
著者は大ベテランの木村勝美さんで、これまでも若頭射殺事件に関して何冊も本を書かれています。組織のために長い懲役を務めて出所された中保さんの気持ちが、著者との獄中書簡なども交えながらつづられています。ちなみに中保さん自身も、獄中から2001年に『ヒットマン―獄中の父からいとしいわが子へ』(講談社)を出版されていて、これも興味深かったです。事件(1997年)の翌年10月に逮捕され、逮捕の前月には息子さんも誕生されていたのに……。ヤクザとして生きている以上は仕方ないことでもあるのですが、事件を通じて関係者への恨み節もにじんでいます。
ネタバレしない程度でお話をご紹介しますと、中保さんの稼業入り(ヤクザデビュー)は46歳とかなり遅めなのですが、もともと頭がよくて、シノギもうまくいっていたようです。事件のあった97年当時は、バブル経済崩壊後の不景気や92年に施行された暴対法の影響はあったものの、まだヤクザの居場所はありました。
中保さんはシノギがちゃんとしているので「ちゃんとしたヤクザ」と見なされたのでしょうか、所属していた中野会の幹部に目をかけられ、ヒットマンとしてスカウトされてしまいます。
「目をかけてくれるのは、はっきりいって、ありがた迷惑でした」
中保さんは、自著でこう振り返っているほどです。中野会とは、若頭射殺事件後に絶縁された中野太郎会長率いる山口組の二次団体です。会長以下、皆さんの個性が強烈すぎることで有名でした。このあたりは会長の自著『悲憤』(講談社)に詳しく、おもしろエピソードもありますよ。今回の『満期出獄~』も、この中野会幹部への恨みがかなり多めです。
「きっちりタマを取らないかん。おまえらそのメンバーや」
秘密の会合でこう言われ、「一同は凍りついた」そうです。そりゃそうですね。でも、断ったら自分が殺されますから、仕方なく指名された面識のない3人とグループを作り、同じ組織のナンバー2という雲の上の人の生命を狙うことになったのです。