コラム
老いゆく親と、どう向き合う?【7回】

60歳で若年性認知症になった母――心中考えた父と娘、関わらない息子【老いてゆく親と向き合う】

2019/06/30 19:00
坂口鈴香

 そんな兄が変化した。それは、兄の家族関係が大きく変わったことが原因だった。

「母が特養に入ってすぐくらいに、奥さんと別れたんです。こっちは母の介護で大変で、父と私が限界まで追い込まれていたころ、兄は浮気相手との間に子どもをつくっていたんです。本当に、何やってたんだとあきれますよね。元奥さんとの間には子どもがいなかったので、別れてすぐに浮気相手と再婚しました。子どもが生まれると、家族というものに目覚めたようで、毎月子どもを連れて実家に帰り、母を見舞うようになったんです。そのうえ、父に経済援助までしてくれるようになったんですよ」

 「結果オーライ」と、中野さんは笑う。兄は、子どもが小学校に入学するタイミングで実家に戻り、父親と同居することまでも考えているという。

「そんなわけで、私も父も新しいお嫁さんのことをよく思っていません。前の奥さんは、美人で高学歴、高収入、家事もできる。完璧な人だったので、つい今の奥さんと比べてしまいます。父は、同居したらさびしくはなくなるけれど、めんどくさいと言っています。まあ、文句を言いつつも、孫はかわいいみたいですが。ただ孫が誰にも似ていないので、DNA検査した方がいいんじゃないかとは言っていますが……シャレにならないですね。でも、同居してくれるのなら、万々歳です」

 そうなったら「父の老後は兄一家にいっさい任せて、ドロンしようと思っている」と吹っ切れたように言うが、実は母親のもとに通うのは複雑な気持ちがあるらしい。

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