「くさいわね……」電動車いすのおばあちゃん万引き犯、Gメンが眉をひそめた“異臭の正体”
まもなくして到着した警察官たちは、彼女の身元がはっきりしないことにイラつきを隠さず、仕方なさそうな雰囲気で彼女を警察署に連れていきました。電動車いすは、店の裏口に置かせてもらうこととなり、自力で歩くことのできない彼女は、警察官が両脇を担ぐ形でパトカーに乗せられています。
その後の調べで89歳の独居老人であることが判明した彼女は、それと同時にいくつかの前科も明らかとなったようで、刑事課で扱うことが決まりました。簡単に言ってしまえば、逮捕の可能性が高いといえる状況です。
(うっつ……)
お店での実況見分を終えて警察署に向かい、刑事課に入ると、お店のエレベーターで嗅いだのと同じ異臭が、自然に息を止めてしまうほど強く漂っていました。この場から離れたいという衝動を堪えて、どことなく桂歌丸さんに似た担当の刑事さんに異臭の正体を尋ねてみます。
「あの、すみません。すごくくさいんですけど、これはなんのニオイですか……」
「え? あんた、知らなかったの? あのばあさん、おもらししちゃってて、大変だったんだ。声をかけられたときに出ちゃったって話していたから、てっきり気付いているかと思っていたよ。ほんと、くせえよなあ。今日は、散々だ……」
臭いの正体を知り、余計に気持ち悪くなった私は、書類ができるまで廊下のベンチで待つことにしました。しばらくベンチに座っていると、両脇を警察官に抱えられて、物干し竿に吊るされた衣服のような形になった彼女が、私の面前を通過していきます。詳しくは聞きませんでしたが、健康上の問題から拘留に耐えられないと判断されて在宅調べとなり、私より先に帰宅を許されたようです。およそ3時間後に書類が出来上がり、署名捺印をするために刑事課の取調室に戻ると、あれだけ強く漂っていた異臭は、いつの間にか消えていました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)