「くさいわね……」電動車いすのおばあちゃん万引き犯、Gメンが眉をひそめた“異臭の正体”
こんにちは、保安員の澄江です。
ここのところ、捕捉に至るのは高齢者の方ばかりで、日常の業務において介護的な要素が強まってきました。当然のことながら足腰の悪い人が多く、事務所まで来てもらうだけのことにも、ひと苦労。ようやく事務所に到着したと思えば、会話が成立しないことも多々あって、手の震えが止まらずに自分の名前を書けない人もいれば、住所や生年月日、電話番号などを正確に言えない人まで存在します。最終的には、警察に引き渡すほかない状況に陥りますが、彼らの扱いに困るのは警察も一緒です。
特に、被疑者に前科があり、「ヤサ(住居)なし、カネなし、ガラウケ(身柄引き受け先)なし」といった逮捕要件が揃ってしまう場合には、目もあてられません。腰の曲がった老人といえども、逮捕するほかない状況になるので、特に嫌がられてしまうのです。そのため、あからさまに被害届を出させないように仕向けてくる警察官も一部の地域で存在しており、犯罪処理における地域格差のようなものを感じることも少なくありません。今回は、少し前に捕まえた電動車いすに乗ったおばあちゃんについて、お話ししていきたいと思います。
当日の現場は、東京の下町商店街の中に位置する食品スーパーE。どうやら高齢化の著しい地域らしく、お店があるアーケード型商店街のメイン通路は、いつもお年寄りだらけで、杖をついて歩く人や施設の方などに車いすを押されて進む高齢者の姿が目立ちます。
この店の開店時間は、午前9時。それに合わせて現場に入ると、平日の早い時間にもかかわらず、すぐに多数のお客さんが入ってきました。店内に溢れるお客さんの中には、朝から酒のニオイを漂わせる日雇労働者風の男性や、妙に不審な動きをする高齢者が多数混在しています。勤務開始早々から、万引きしているだろう人を二人見かけましたが、いずれもタイミングが合わずに現認不足となり、声をかけることはできませんでした。
(ここは「いる現場」だから、きっと大丈夫……)
いままでの経験からすれば、この店で捕捉がない日はありません。少しイラついた気持ちを落ち着かせるべく、見通しの良い中央通路に佇んでいると、この店一番の死角である日用品売場に、黄色の電動車いすに乗ったおばあちゃんが入っていくのが見えました。曲がり際に、不自然なほど後方を気にしていたのが、どうにも気にかかります。最大限の早足で駆け付けて彼女の行動を見守ると、膝の上に載せたカゴの中にある惣菜や果物などの商品を、次々と自分のバッグに移し替えているのが見えました。
これまでノーマークだったために、棚取りは一つも見ておらず、このまま出られてしまえば、またしても見送る結果を招きます。タイミングが合わない時は、なぜかこういうことが続くものなのです。しかし、彼女の大胆な所業は、これに止まることなく継続されました。精肉や和菓子など、いくつかの商品をカゴに入れると、まるでそうするのが当たり前といった動きで、自分のバッグに隠していったのです。