芸能
『ザ・ノンフィクション』レビュー

フジ『ザ・ノンフィクション』とNHK『彼女は安楽死を選んだ』:難病女性が選択する生死

2019/06/11 17:01
石徹白未亜

NHKスペシャル公式サイトより

 この番組の少し前にNHKのドキュメンタリー番組「NHKスペシャル」で『彼女は安楽死を選んだ』という内容が放送され、50代の日本人女性・ミナがスイスで安楽死するまでの日々を伝えていた。ミナは多系統萎縮症というALS同様に治療法が確立されていない難病患者で、車椅子で生活している。ミナを受け入れたスイスの安楽死を行う団体は、日本からの申し込みが今年はすでに6件あり、急激に増えていると話していた。なお、安楽死を実行するには「回復の見込みがない」など、いくつかの条件がある。

 NHKスペシャルによると、世界で安楽死を行っている国はカナダ、コロンビア、スイス、ルクセンブルク、ベルギー、オランダで、アメリカとオーストラリアは一部の州でのみ認められているという。一方、日本において安楽死は殺人扱いとなり、医師が罪に問われた事件もある。そうした背景を踏まえ、日本では安楽死に関する議論が避けられていると同番組は伝えた。ミナ自身、「自分で死を選ぶことができるということは、どうやって生きるかということを選択することと同じくらい大事なことだと思うんです。私の願いでもあるんですよ。安楽死をみんな(日本)で考えることは」と話していた。ミナはスイスでの安楽死という選択肢を知る前に、病状を悲観し自殺を図ったこともあったが、筋力の衰えで未遂で終わっている。自分で死ぬことができないつらさがあった上で、ミナはスイスに行ったのだ。

日本に安楽死という選択肢があればできたこと

 NHKスペシャルにおいて特に考えさせられたのが、スイスの病院で医師がミナにかけた、「もし彼女(ミナ)がスイスに住んでいて、長距離移動をしなくて済むのなら、こんな早く死を選ばなくても良かったはずです」という言葉だ。スイスまで移動できる体力のあるうちに死を選ぶ必要がミナにあった。

 もう少し家族と過ごせたはずのミナが下した切実な決断を前にすると、現在の日本は「安楽死の是非」を議論する以前の状況にあると思える。長寿国で死が身近なのにもかかわらず、死にフタをしているように感じるのだ。死のことなんて誰も考えたくないだろうが、考えないゆえのひずみで苦しむ人がおり、そして明日、自分や家族がそこで苦しむ可能性だってある。

 「私が私であるうちに安楽死をほどこしてください」と「私が私らしくなくなる」ことを恐れて安楽死を選んだミナの決断も、そして『ザ・ノンフィクション』の番組最後で、ALSが治ることを信じ、好きなバンドのコンサートに足繁く通うなど、生きる楽しみを追いかける美怜の決断も、両方が正しく私には見えた。

病気になったときに自分を支える二つのもの

 美怜とミナ、二人の決断はある意味で正反対に見えるが、両者には共通点もあるように思う。「愛情(家族)」と「お金」という、二つの大切な土台がしっかりしている様子に見えたのだ。

 まず「愛情(家族)」だが、それぞれの家族は二人のことをかけがえなく思っているのが伝わり、年月で培われた愛情や信頼を感じた。美怜の病気を残酷だと話した父親は、普段のテンションはどこかとぼけた味のあるおじさんで、ツッコみ役の母親とともに家族の雰囲気には温かさがあった。美怜が活動的に生きているのは、この両親の存在が大きいのだろう。一方、両親の離婚で年の離れた姉二人に可愛がられて育ったミナも、最期まで姉たちが寄り添い、大切な人たちに看取られ最期を迎えていた。

 そして「お金」についてだが、介護要員つきで飛行機で外出する美怜も、スイスで安楽死を選んだミナにしろ、どちらも金銭的都合がつかなければできないことだ。

 なにも難病に限らず、日本において病気になった時や老年の最期のとき、「愛情」と「お金」という二つの土台がないと、「自分で最期を選び看取られ亡くなる(ミナの選択)」ことも、「活動的に生きる(美怜の選択)」ことも選べないのだ。そうして「困難な体を抱え、孤独にただ時を過ごす」という選択肢になってしまうのだと、当たり前すぎるのだが、あらためて思う。

 次回のザ・ノンフィクションは昨年も大反響のあった人気企画『シンデレラになりたくて…2019 ~前編~』。公開美容整形オーディション『整形シンデレラ』に賭ける女性たちとその家族を追う。

石徹白未亜(いとしろ・みあ)
ライター。専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)。
HP:いとしろ堂

最終更新:2019/06/20 12:33
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