父は被害者なのに――老人ホーム、認知症の入居者とのトラブル【老いてゆく親と向き合う】
“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)
そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。前回に続き、もう少し福田涼子さん(仮名・48)の話を続けたい。
施設長が替わって空気が一変したホーム
福田さんの両親は有料老人ホームに入居している。実家から近いこと、なにより見学に行ったときに施設長の対応が良かったことが入居の決め手になった。職員や施設長の感じが良くて、そのホームを選んだという人は多い。ただし、大手企業が運営しているホームの場合、施設長は定期的に異動する。施設長が替わると、ホーム全体の雰囲気がガラリと変わることもある。職員の入れ替わりの激しさは介護業界の特徴ではあるが、施設長の異動は入居者に大きな影響を及ぼす。
福田さんの両親が入居するホームでも同じことが起きた。
「ホームに入居するとき、父は施設長が大変気に入っていました。母がすべての介護を拒否していて苦労していた私たちですが、母にも施設長の人柄が伝わったのでしょう。入浴も、薬も、職員に素直に従っていてびっくりしたくらい。それはそのまま、私たちのホームへの信頼になりました」
それが、施設長が替わったことで、ホームの空気が一変したのだ。
「新しい施設長は、それまでの施設長とまったく違うタイプで、入居者に対して冷たい気がしてなりません。特に父とはソリが合わず、施設長の言葉にいちいち腹を立てています」
職員の介護の質や接遇も、目に見えて低下したと福田さんは感じている。リネン交換や着替えの介助などのときに、職員がものを投げて渡すようになった。入居者が職員を呼んでもなかなか来てくれないことも増えていったという。
父親が特に悩まされたのが、認知症の入居者とのトラブルだった。
「各居室は介護職員が入るために施錠しないことになっているのですが、認知症で徘徊する男性が自室と間違えているのか、頻繁に父の部屋に入ってくるそうなんです。そして父の部屋のものをポケットに入れて持って帰ったり、壊したりするんです。何度も職員に訴えているのに何の対処もしてくれませんでした。ある日、夜中に父の部屋の椅子に座っていたそうです。たまりかねた父が『出ていけ!』と怒鳴ると、父の眼鏡をかけて出て行ったと。ところが、それを父から聞いた施設長は、その男性ではなく父に『なぜ怒鳴ったんですか。彼は何もわからないんだから、あなたが親切に手を取って、あなたの部屋はこちらですよと教えてあげなきゃダメでしょう』と怒ったというんです。父は入居者ですよ。しかも迷惑をかけられた方なのに、謝るどころか逆になぜ怒られなければならないんでしょうか。父も『もうこんなホームにはいたくない。出ていく!』と大騒ぎになりました。出ていっても困るのはこちらなので、結局泣き寝入りだったんですが」