中学受験の塾選びで失敗……「難関校請負」の大手塾で、なぜ娘は円形脱毛症になったのか?
敦子さん(仮名)はフルタイムで仕事をしている、いわゆるキャリアウーマン。娘のエリカちゃん(仮名)が新小学4年生になる時、敦子さんの希望で「中学は私立」という選択をしたそうだ。学区中学の評判が芳しくなかったことと、小3のクラスが、学級崩壊していたことが理由になったらしい。
そこで敦子さんは、どうせ行くならば、大学合格実績も良いと言われている偏差値の高い学校に行かせたいと思い立ち、難関校に強い大手塾の門を叩いた。「どの塾を選んでも同じようなものでしょ?」という気持ちだったらしい。
ところが、この塾は、勉強量と、受験までに終えなければいけない学習内容を仕上げる早さに定評があり、したがって「子どもが自分で学習できるようになるまでは親のサポートは必須。特に宿題の優先順位を決めること、プリント管理は親の仕事」というスタンスだったという。つまり、よほど学習習慣が根付いている子でない限り、親の出番が多いという塾だったのだ。
その頃、敦子さんは管理職になったばかりで、とても忙しく、エリカちゃんの勉強に付き合う時間も取れない状態だった。頼みの夫は単身赴任で戦力外。それでも、エリカちゃんはきちんと塾に通っているし、真面目な子であるため、「きっと、塾の勉強についていけてる、大丈夫だ」と思い込んでいたという。
敦子さんには「だって、難関校請負塾だって評判のところに行かせているのだから」という根拠のない自信もあったのだそうだ。しかし、気が付くと、エリカちゃんは組み分けテストの度にクラスが下がっていく。
敦子さんは心配して「エリカは真面目にやっているのだから、きっと合格するわよ。最後はコツコツ型が勝つのよ!」と励ましたという。ところが、この叱るでもなく、怒るでもない“励まし”の言葉の方が、エリカちゃんにはつらかったようだ。
エリカちゃんは敦子さんに、頻繁にこう尋ねるようになった。
「ママ、エリカのこと好き? 嫌いになってない?」
「大好きよ。嫌いになるわけがないじゃない? エリカはママの大切な子どもよ」
そんな問答が毎日のように交わされていたらしい。
そうこうしていた5年生の冬に、ある事件が起こった。敦子さんは、エリカちゃんの頭に500円玉大の禿げを見つけた。円形脱毛症だ。敦子さんは、「こんなに幼い娘に、私はなんというストレスを与えていたのか……」とショックを受けたという。
その時、初めてエリカちゃんは、自分の気持ちを打ち明けてくれたそうだ。
「前は(塾で満点を取ると)“ごほうびシール ”をもらえることもあって、それを見せるとママが喜んでくれたから、頑張ろうって思えたんだけど、今はもう1枚も取れない。算数の先生が何を言っているのかもよくわからない。どうしていいのかもわからない……」
中学受験は、一度参入してしまうと、そこから抜け出すことが難しいという“罠”がある。子ども自身がそれを拒否するのだ。敦子さんも「そんなに苦しいなら、受験はやめよう」とエリカちゃんに提案したそうだが、首を縦に振らない。ある程度、塾生活を送った子たちは、どんな状況下に置かれても、大抵の場合「受験はやめない」と言い切るのだ。
敦子さんは自虐気味にこう話してくれた。
「私が浅はかだったんです。自分に中学受験の経験がないせいで、なんだか簡単に考えていて……。塾にも性格があって、その特性に合った子ならば伸びるし、逆の場合はこんなにもストレスを与えてしまうものなのかと、自分を殴りたいような心境でした」